マンションの17階のベランダに蝉の抜け殻が転がっていた。木と間違えて、こんな高いところまで、羽化するためによじ登ってきたとは思えないので、風に吹き上げられてきたのかもしれない。
蝉の抜け殻は「空蝉」ともいわれるが、「うつせみ」には、俳句や短歌、文学の世界、あるいは心霊的な精神世界へといざなう響きがある。
うつせみとは、この世に生きている人間のこと。古語の「現人(うつしおみ)」とされていたものが転じて、「うつせみ」に。生きている人間の世界や現世の意味もある。仏教の世界では、人間の生は、とても儚くせつないものとして捉えられていて、それを蝉の抜け殻を意味する「空蝉」に重ねたようだ。
今では、日本だけでなく、世界でもスピリチュアル的にも縁起がいいとされている蝉の抜け殻―空蝉。羽化するタイミングで敵に狙われて死んでしまう蝉も多い中、生き残ったということで幸運のシンボルともされている。
今、窓の外は大音響の蝉時雨。その中の一匹が、ベランダに空蝉を残したのかもと思ったりする。
うつせみのかるさ 芒のひかりかた 吉田州花