今日の一句 #510

羅漢像ひとりぐらいは騙せそう  若林よしえ

ずらりと並んだ羅漢さま。
十六羅漢、十八羅漢‥‥
いや本作のずらりは、やはり五百羅漢。

それほどの数おわすれば、
確かに、騙せそうな御仏も

一体くらいはいらっしゃりそう。

などと、これまでに出会った五百羅漢を思い返す。
山中の像は、尊顔の多くが風化していつつ
その顔なき顔にもやわらかな表情があった。

そう、だからたぶん、
わざわざ騙そうとせずとも、羅漢像みな、
すべてを受けとめてくれるはず。

でも、決して騙せないのは自分自身。

ユーモアにくるみつつ、
そんなことにどきりと気付かせてくれる句に
ふと旅情を誘われてもいる。


(句集『明日』 若林よしえ/かもめ舎川柳新書 左右社)







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