コスモスのざわめき塔は不眠症
踏まれ邪鬼あの日の蝶を恋しがる
落丁のページのように摩崖仏
山崎夫美子
掘っても掘っても産業廃棄物
三井炭鉱どこにあるかと聞くウサギ
雨漏りはするし柱は傾くし
吉田利秋
石段にポチと夕日と赤トンボ
タンポポの頃にもあった混乱期
畑仕舞い老いのコスモス白を吐く
吾亦紅
トンネルにミサイル隠す秋の山
フレームの中なまなかな1時間
ハロウィンの行列ひとりずつ霞む
阿川マサコ
そもそもが番線違ってた旅路
ひと押しが足りないままにネコジャラシ
秋の風ふいにチロルと出る言葉
浅井ゆず
女子大の門をくぐると冥王星
スコールに濡れてゆこうよ出勤路
愚痴も文句も上昇気流に乗って
朝倉晴美
朝凪に風の影ありカプチーノ
今が大事ゴールポストの右狙い
星の欠片数えてふたりのただいま
海野エリー
還暦の顔がなんだかカマドウマ
かまどうまマスクを取った顔ミタイ
必勝の鉢巻締めてカマドウマ
おおさわほてる
ありったけの空色絵の具絞りだす
背任の罪は堂々宇宙ごみ
右手前に引けば鬱に戻る予感
岡谷 樹
本日の諸々が浮く洗面器
腰痛をスタイリッシュに打ち明ける
十月の半袖同士だったこと
小原由佳
狂わない時計を捨てに花野まで
転んだらすこうし楽になりました
篠笛と呼び合う夜の時鳥
笠嶋恵美子
落葉松の林抜ければ短詩型
日めくりを捲るハッピーエンドまで
ネパールの人が焼いてる御座候
川田由紀子
窓ガラス月が残していく指紋
まちがって沼になってるティースプン
まつろわぬ一陣の風 楝の木
河村啓子
鎖骨から上は本音を語らない
フラッシュモブ点滴もそろそろ終わり
二死満塁風は吹かない無観客
菊池 京
触れそうな指の二センチ持て余す
逆光の君が静かに責めている
眠たげな猫に日溜まり譲る午後
黒川佳津子
手足が揃って尺貫法違反
じゃあまたがない鴨だからじゃあまたね
まどよあけぼくのおならはえらくない
河野潤々
こころもちなにげ摩周湖屈斜路湖
為す術の取っ手に片手かけている
呼応するように誤読をしてしまう
斉尾くにこ
林檎の皮のいつまでつづくバス通り
錦繍のひと日の空を保存する
納品書にもレモネードにも枯草熱
澤野優美子
さわやかな風に灯りが消えてゆく
少し向こうへ誠実な線を引く
ボール半分の行方と果てる夏
重森恒雄
傷みだす私の中の夏の空
しあわせのラインダンスの揃えかた
わかりましたよここがわたしの穴ですね
芝岡かんえもん
三度読みゆっくり破るラブレター
義を見てもせざるの多き日本人
不貞寝していつまでも待つ女文字
昌善
言えなくてストローつつき滲ませる
三人の指がもやもやする構図
捨てきれず秋に取り出す臙脂色
妙
くるしみの中に一筋ある梨よ
金魚鉢かくれんぼして雪になる
弟は砂をひたすら煮ているよ
千春
ひとつずつ秋の名前をつけてゆく
熟考の果て天辺に沈む柿
バッグにはスマホ、ハンカチ、秋銀河
西田雅子
背後にもすでに背高泡立草
頬杖を伝染し合ってはラフランス
譲り受く仔猫と記憶媒体と
芳賀博子
野仏に頭を下げて散歩中
あっキンモクセイ父の看取りが甦る
やるべきことを今はやるだけ虫が鳴く
林 操
電波捉えておお!秒針が動き出す
パトカーに自信が欲しい交差点
銀杏をしどろもどろに踏んじまい
飛伝応
一人より寂しい二人より五人
辻褄を合わせて今日を眠らせる
バーンアウトさせた医療の野蛮性
平尾正人
ヴィーナスの仮面ひみつのアッコちゃん
人間失格玄関前の糞
誕生日運動靴を買い換える
弘津秋の子
手を繋ぐ工事現場のパイロンと
あいみょんの色気を見習ってみるか
はらほろりん家族写真という記号
藤田めぐみ
秋の夜の反芻癖が治らない
七輪のサンマはきっと普通の子
先頭の人が斜めになっている
藤山竜骨
口調まで母にそっくり栗おこわ
どの口が言うかとわらう曼珠沙華
豊穣の秋よ口腔ケア指導
宮井いずみ
神さまの退屈しのぎ寝坊する
あの部屋はタイムカプセルだったのね
照明をつけないことにする月夜
本海万里絵
ハイボールかざす掌の混沌
お前は何者乳房のエイリアン
芒のシフォン青い空をまとって
森平洋子