2023年11月

銀のエンゼル五枚集めたのに荒れ野
見え消しをなだめるまでの余り糸
ひとつだけ叶うとしたら銀河葬

菊池 京

クロッキー始まるパッションオレンジ咄嗟に
火花散らすモデルの2分描き手の2分
髪は緑髪は紫オペラピンクの肉体

北川清子

急ぎますのでと去り際のマイマイ
許したい人は遠くに鰯雲
本心を語れば落語めいてくる

黒川佳津子

ミルフィーユほどの沈思に誘われる
すり足で下がる八方破れにて
冥王星に呼び止められて秋夜長

黒田弥生

一幕の終わりにゆるくタックイン
行間を灯す愉楽の3ワルツ
肉感を拾う ※コミコミ価格です

河野潤々

潮騒で目覚め午後には絵を描いて
暗黙を泳ぎ出てゆくタライロン
バランスを崩さず空は持ち上げる

斉尾くにこ

檸檬っぽいあなたはいまもあたらしい
清く正しくお別れのキムチ鍋
合い言葉じり(海霧)のものうさ雨合羽

澤野優美子

今日は今日の雨降る階段を上がる
やっかいなウサギが死んだ振りをする
甕に水あり図書館に明日の本

重森恒雄

コンドルよ私の肉は美味くない 
金欠の博物館に江戸小判
アッカンベーほんとの私五人おり

杉山昌善

海の色忘れてBiSH解散日
中指のリズム、スラムの路上より。
初めてのふたりの朝に巫女辞めました

須藤しんのすけ

次の角あっちむいてホイで曲がる
後悔に七味を振って流し込む
ずるい人子持ちコンニャクつついてる

自己責任で生まれたわけでない
そうは言っても背骨が曲がってる
前世を聞いてはならぬイヌフグリ

浪越靖政

さえずりの零れるひとつ髪に挿す
みぞおちに居座っている秋憂い
Butterfly, 夢のつづきのその先へ

西田雅子

秋だらけの街で孤独を買ってきた
乾燥機この世のことや呪文など
多分ミルクの膜がつじつま合わせるよ

西山奈津実

星月夜サービスエリア伊賀上野
野紺菊軟膏ひとつ手土産に
手招きされて湖の通り抜け

芳賀博子

WARNING! 正気が破損しています。
蟹座だし裏切り者は許さない

橋元デジタル

迷い無き旅人どうし秋深む
優先座席タヌキやキツネ知らんぷり
遊ぶって大変帰路を見失う

林 操

喜寿祝い芸妓相手の樽砧(たるきぬた)
喜寿祝いあと幾年(いくとせ)の指を折り
喜寿祝い勝つも負けるも無い来世

飛伝応

次次に届く訃報も吉報も
この空の下で世界は不平等
国家とは何だ三十八度線

平尾正人

下弦の月眠ったふりをしています
誕生日豆腐屋さんがやって来る
手放せぬ赤チンと呼ぶ薬箱

弘津秋の子

てんやわんやのお椀にギガも増量中
蝶々なのたまたま翅がとれただけ
受けて立とう夢か淵かはわからぬが

藤田めぐみ

求人誌めくれば国民の一人
仏滅に開く卵を産む句集
朝バナナ電子レンジでチンをして

藤山竜骨

恋に破れやけ酒飲んだ十五の夜
名月や大合唱の虫たちよ
そーっと抜き足差し足盗み酒

堀本のりひろ

体質として受け入れる白昼夢
畑から引っこ抜かれてゆく露骨
ふらんすと言いたいだけの水煮缶

真島久美子

軽トラに材木はしご鰯雲
うそ寒の微妙にまずい散らし寿司
ゆったりとお茶 終章のアラベスク

宮井いずみ

秋茄子の紫紺残して暮れなずむ
秋の昼熊の親子の散歩道
聞くだけにする人生の裏話

もとこ

体毛が今だここだよってゆれる
すごくすごくうれしいんだ雨が降る
さよならをちゃんとわかっている獣

本海万里絵

青過ぎない空に埋め込むキーワード
曼珠沙華 眉毛と睫毛が話し込む
質量のない返事ならいらないわ

森平洋子

またしても闇を盗んで天燈鬼
飢え鹿が水飲むほとり風が止む
石だたみ語り尽くして深い秋

山崎夫美子

いい話娘に言うと「よそはよそ」
駆け上がった非常扉がロック中
川柳が俺の命だこれは嘘

吉田利秋

朝ビュッフェ呉越同舟笑み返し
ウェイターの白い歯いい仕事してる
群青に航跡これぞデトックス

四ツ屋いずみ

刻みます 全てはこれでご破算に
一人酒身についてきた お湯で割る
おひさまに私の身体干している

渡辺かおる

何があった 姿を見せぬ彼岸花
目の前の壁いちめんにノコンギク
起ち上がる気配 受話器の向こう側

吾亦紅

あらすじの破片ひぐれのぼんのくぼ
旅人の背は点線をひいてゆく
走り抜くメロス真実ラ・フランス

阿川マサコ

土砂降りになってきっちり片が付く
ゆるゆると柿は熟して日はすぎて
柚子は黄に私はなにを待っている

浅井ゆず

十五夜は好きでないんだ婚約者
十三夜君と僕らは違う人
望月にふらふらふらりひとり好き

朝倉晴美

共通点 宿題やっていないこと
この夏の枯らした草花のリスト
動いて行った 待ち合わせの場所から

石野りこ

筒状になってしまっている私
鏡の中歌いきる現実逃避
返さないまんま逝ってしまった君

伊藤聖子

選択肢なければ迷うことはない
どうせなら地獄で楽をしてみたい
じゅっという音を残して消えたとさ

伊藤良彦

秋さやかカバンの中もスペイン語
稲刈りで出遇った君はシンデレラ
さておいてお袋の味食べて寝る

稲葉良岩

空虚へとポンポン船がよってくる
鍋敷きは戦をたべているらしい
直立不動まじめな水になっている

岩田多佳子

ジグソーパズル白馬はいまだ走れずに
青空を指さす君が嫌いじゃない
海は囁く今日の一歩をためらうな

海野エリー

いつの日かどんぐりになり夕日見る
パトカーの中はコスモスいっぱいだ
別れの日ヌスビトハギは星になる

おおさわほてる

噴水を枯らしましたとお詫び状
先頭の間違い道は真っ赤です
溜息を引き取り空は不安定

小原由佳

策を練る金木犀の木の下で
指切りをするたび月が痩せていく
燃え尽きた男を星にかえそうか

笠嶋恵美子

うまいこと夕陽を掬うショベルカー
悪態をついても梨は滴りぬ
ボーカルの横でアワアワしてる秋

川田由紀子

私もまたハダカデバネズミ
ハイターに布巾を浸ける神無月
空蝉のランチはシンガーポールランチ

河村啓子

会員作品を読む 2023年11月 芳賀博子

第28回会員作品から

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