今日の一句 #631

三角に折られた過去を持つ鳥だ
城水めぐみ


といわれなければ、過去の折り目に気付かなかった。
三角はいったんひらかれ
丁寧に折りなおされて、
今はもう羽ばたかんばかりの姿。
いやすでに自由に自分の空を飛んでいそうだ。


だから、過去なんてすっかり忘れていいのに
もしかしたら、かつての折り目に
しくっと痛みをおぼえたりする日もあるのかな。


さて、無造作に三角に折ってしまったは誰だろう。
違うよね、と折りなおしてくれたのは誰だろう。
ひょっとして、どちらも自分自身?


おしまいの「だ」の断定の助動詞が
屈託の余韻をさりげなく強く残す。


出典は昨年末に刊行された
城水めぐみ氏の第一句集『甘藍の芽』。

 増えたのは楕円を円にするくすり
 水晶婚答え合わせはまだ早い
 ともだちの蓋はやさしく閉めましょう
 滴ると不協和音になる果実
 駱駝から降りると町も人も雨

手にとりながら、ふと湖を思った。
透明度の高い、こころのかたちをした湖。

その穏やかな湖面の下には
底へゆくほどさまざまな感情が泡立っていて
すっと浮き上がっては、ページに弾け
みずみずしい光を放つ。


(句集『甘藍の芽』 城水めぐみ/港の人 2023)

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