不時着の木綿豆腐に頼り切る
千春
確かについ頼りたくなる。
木綿豆腐、頼もしいですもん。
メインでも脇役でも
与えられた役割をひょうひょうとこなし、
しかも決してドヤ顔などしない。
だからわが家の冷蔵庫でも
常にスタンバってくれている。
ただ、ウチのは近所のスーパーの豆腐。
一方、掲句は不時着の木綿豆腐!
な、なんてロマンチックなんだろう。
と同時になんてリアリティがあるんだろう。
「不時着」と「木綿豆腐」という、
本来乖離しているはずの二つのことばが
ごく自然に結びついて、キラリと詩になり、
胸におち、笑みを誘う。
本作は、千春氏の新刊句集『こころ』より引く。
日常のあらゆるも、宇宙の営み。
一人一人のこころよりうまれ、あふれでるものもまた。
そんなことをしんしん思いながら
ページをめくりながら
ふと句をつぶやいたり、
誰かにささやいたりしたくなる句集。
弟が流星群を投げてきた
ジャズ聴いて浴衣は緩く翻る
ハンバーグ夏至の二人の過ごし方
「負けました」その片膝が欲しいです
消しゴムが割れる。あなたを離さない
(句集『こころ』千春 / 港の人 2024)
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