Vol. 161 夏

 夏(なつ)の語源には諸説あり、
・朝鮮語の「nierym(夏)」、満州語の「niyengniyeri(春)」など
・アルタイ諸島で「若い」「新鮮な」の原義の語と同源
・「暑(あつ)」、「生(なる)」、「熱(ねつ)」のそれぞれが転じた など

「夏」の漢字は、古代中国の象形文字から由来していて、もともとは、稲穂が実る様子を描いた文字であり、季節としての夏が穀物の成熟期であることを示していた。のちに、人が立っている姿と稲穂を表し、収穫を迎える季節を意味するようになる。

日本では、冠をつけて両手・両足を動かして、雅やかに舞う夏祭りの舞の様を表し、そこから、「なつ」を意味する「夏」という漢字ができたといわれている。寺社の境内に老若男女が集まって踊る先祖崇拝の祭り「盆踊り」となる。

「なつ」のもう一つの由来に「泥む(なずむ)」がある。「暮れ泥む」の「泥む」。行きなやんだり、はかばかしく進まない状況を意味する。草がぼうぼうと生えて、行く手を阻まれ、池の水が淀み、じとーっとどこか重たい空気の「夏」。湿気の多い日本の「夏(なつ)」の語源は、ストレートな「暑(あつ)」、「生(なる)」、「熱(ねつ)」が転じたものより、案外「泥む(なずむ)」、が近いのかも。

 立ち枯れの父を倒せばひろがる夏  石田柊馬