辛かっただけのカレーの店を出る 德永政二
日記のような一句であるけれど
日記ならこんな書き方はしない。
「店を出る」
その瞬間を現在形で切り取って、
読み手をひょいと現場へ引き込む。
昼飯どき、出先で立ち寄ったカレー専門店だろうか。
カレーの店、とちょっと期待させた割には
ただ辛いだけのひと皿。
おまけにどっと噴き出してくる汗を拭いつつ
黙々とたいらげ、
ともあれ腹は満たして、
会計を済ませ、
店を出たその瞬間の、
かっと照りつける日差し。
と、一連の流れを映像で再現しながら
思わず、ああ、ご同輩、とうなずく。
人生のほんの一コマに醸し出される
可笑しみやペーソスが
淡々と味わい深く、
作者の代表作のひとつ。
(川柳作家ベストコレクション『犬小屋の中に入ってゆく鎖』
德永政二/新葉館出版)
過去ログはこちらから▶