今日の一句 #711

千年も経てばまたぞろ詩を書きに
一戸涼子


「詩を書きに」のあとはどう続くのでしょう。
それは読み手にゆだねられています。
輪廻転生がよぎり、
いや、そもそも不死のたましいの持ち主か、
などと、はるばる想像を広げるのは楽しい。


されど本作、ファンタジックでありながら
「千年も経てば」「またぞろ」と

肩の力の抜けた俗な調子に
好もしき人間味があり、
ああ、と如何ともしがたい感懐を誘われます。

出典は、この8月に発行された「水脈」終刊号。
北海道を拠点とし、
浪越靖政氏が編集発行人を務める「水脈」誌が、
たくさんのファンに惜しまれつつ、
この第70号をもって
23年間の歴史に幕を閉じました。


本誌は飯尾麻佐子氏の「魚」にルーツを持ち、
「あんぐる」を経て「水脈」に。
その歴史やこれまでの活動内容が、
浪越氏によって、前号今号の2回にわたり

詳細に紹介されています。
拝読して、同人の方々が一号一号、
いかに真摯に情熱をもって
創り続けてこられてきたかに
改めて感じ入りました。
「水脈」の歩みもまた、大切な川柳史。


そして、清々しき「完」の後、
これからも諸氏の個性豊かな作品と
さまざまなかたちで、新たに出会い、

味わわせていただきたく思います。

終刊号の同人作品から。


 はかなさか希望かわたあめのわた  佐々木久枝
 踊り場のつなぎとんぼの行方など  澤野優美子
 ピリオドをどかんと打った満月   西山奈津実
 頬骨をなぞり終えたらリラ冷えに  四ツ屋いずみ
 気持とは裏腹空が澄みわたり    酒井麗水
 暮れなずむ定礎はひとつ咳をする  河野潤々
 気まぐれな橋を許して歌えない   平井詔子
 仮初めから仮初めへ光ケーブル   宇佐美愼一
 らすとダンスはやっぱマツケンサンバ 坪井政由
 海に氷がひとつ鯨が泣いた     きりん
 あやとりの終わりはいつもバリケード 落合魯忠
 きのうから悪玉菌を育ててる    浪越靖政


(「水脈」第70号 川柳グループ 水脈  
 2025年8月)

過去ログはこちらから▶