2025年10月

ひょっこりと母の得意なレシピ集
懐かしい海にあの日のあの匂い
半券を見っけバック・トゥ・ザ・フューチャー

峯島 妙

結願まであと九日の足がない
下唇かんでF音天高し
潮時と言うなキレット登り切れ

宮井いずみ

お元気ですか?静かな夜は手紙書く
好きになってきたよ長い夜のこと
今だ今だけの光だありがとう

本海万里絵

冷凍庫にしまう海色のリング
アボカドの熟すあいだに即興詩
ツンデレのツンで生きてく島の猫

森平洋子

暑すぎて蝉もカラスも声無くす
クーラーが休める様に行く散歩
生き死にの話に揺れるカスミソウ

森 廣子

満月に少し隠れる穴を掘る
名ばかりの秋が揺らしている架線
呪縛から逃れられないシュガーレス

山崎夫美子

通天閣と大阪平和美術展
連日通う兵庫の平和美術展
神戸スイーツと東京平和美術展

吉田利秋

8月に読む「逃亡」帚木蓬生
邂逅はローズガーデン2ページ目
スペースを開けてくれませんかとクマ

四ツ屋いずみ

恋になる三高プラス高糖度
したいことしていないこと山の様
非常ベル落書きされる爆破ベル

渡辺かおる

少年A おのれを磨くための闇
少女B 近づきたいという傷痕
ふるさとを灯しはじめた村人C

吾亦紅

回転ドア押せば拡がる鰯雲
風媒花そんな生き方あったのに
その日のためカボチャの種はとっておく

浅井ゆず

鶏頭と屹立九月の研修医
不合格爆走自転車夕立来る
遍路道アンパンマン列車並走す

朝倉晴美

月曜日顔を洗ってまた寝たの
冷凍庫の卵よすがに金曜日
あら熱の取れない日曜日の夜

石野りこ

新宿で修行のために乗り換える
すれ違う電車も風もただの風
階段の途中で人に戻ります

伊藤良彦

灼熱に負けたか案山子膝をつく
公平に二十三個を分かち合う
毟られた羽根を探している天使

稲葉良岩

しあわせな月におなりになりまして
壁紙の端がめくれたような日々
河がながれる製本を躍らせて

岩田多佳子

ふたり乗り自転車次のステージに
星月夜ちょっと都会派ぶったけど
羽あれど悲しみ胸にうっすらと

海野エリー

赤とんぼケニアの風を切ってます
君と僕暮らし始めた露草に
露草を摘み取る前に抱きしめて

おおさわほてる

丹田にお灸を乗せて曼陀羅華
瞑想はジュラ紀の海の深さへと
知覚過敏 北極点はすぐ真下

大竹明日香

天井を変色させた独り言
アボカドの食べ頃外しエセ晩夏
椅子を出す長い話になる合図

小原由佳

拾い読みしながら海へ辿り着く
狂い咲くことにも慣れて山吹は
本懐を遂げたか鍵は外せたか

笠嶋恵美子

ふるさとは青が溢れておりました
窓のない部屋でゆらゆら水中花
金星を目印にゆく夏の果て

桂 晶月

月見バーガーいくつも食べて十三夜
ぴったりとラップを掛けて自己管理
さよならのハグは雫を切ってから

川田由紀子

昼顔の薄ら笑いは納豆臭
室外機から漏れるひぐらし日記
摩天楼より嚏すまじ咳すまじ

河村啓子

賢い子強い子と言うけど死なん子がいちばんええ
パパ髪が伸びたねそうだねもうすぐ新学期
そんなもんかなそんなもんだよそりゃそうだよな

寒雷

ざっくりと編んだ記憶の風通し
今さらに外した補助輪の行方
バックハグ君の翼に訊く答え

菊池 京

そして今走り出します海のほう
ヤドカリとやんちゃしちゃって大潮で
寝っ転がって浜めいっぱい空

北川清子

淋しいと言うから来たと赤トンボ
底値だと言われて買った宇宙船
思い出のベンチ水色 褪せました

黒川佳津子

素潜りで拾った鈴を見失う
葉鶏頭ひととき白いときあるか
手を上げたブリキのおもちゃ野晒しに

黒田弥生

性向に三行半のカプリッチョ
源氏名が夫の姓に変えられる
うたかたの黒子に絡みつく白夜

河野潤々

その前に風のあしたと組体操
一枚の夜空軌跡を写し取る
感動のほとぼりかすかな振動

斉尾くにこ

月蝕が始まっている銀食器
未練なさげに窓を闇が出てゆく
素裸を撫でられている波の音

重森恒雄

信楽の狸だ見事切腹す
肩書きの取れてトマトの丸齧り
感電の他にしびれの無い余生

杉山昌善

木の実雨ひびくこの身の朽ちるまで
不要だと言われ芙蓉と酔い痴れて
蔦紅葉まだいきるのに拙くて

たかすかまさゆき

どうしよう天使のブラを渡されて
さよならの背中にそっと投げキッス
夏終わる取り残されたオノマトペ

浪越靖政

夕焼けの食べ頃を待つ健啖家
バケツの底月の痛みを受けている
苦みだけ残して去った君とレモン

西田雅子

肩の位置ずらして嵐避けている
白桃は月を例外なく嫌う
サヨナラが絡んだ指は棄てました

西山奈津実

どうしても見にゆきたくて傘を折る
遠巻きに秋とこいぬを見て過ごす
近視です飴を宝石にできます

温水ふみ

谷折りの谷底からの秋の空
真夜中のラジオで知った人魚の死
オカリナで語りかけてはどうだろう

芳賀博子

シティーにてヘルシーフードに囚われる
母はまだ一度も逢いに来てくれず
先行きを自問自答のイチョウの実

林 操

行くさきざきの信号無視を強いられる
スマホからジョークのような知恵を得る
清貧を貫くわがままですか

飛伝応

上手く靴が履けたか妻の名が出たか
八月のままで停滞する九月
歩きます杖はつくものすがるもの

平尾正人

ポカンポカン今の私を受け入れる
午前四時ゆっくり水を飲んでおり
田んぼ道目線を逸らす赤蜻蛉

弘津秋の子

性格の不一致白湯を飲んでいる
能面の館が崩れかけている
武闘派からの遺言は着払い

藤山竜骨

三十路の頃ポマード塗ってかっこつけ
札束でホッペ撫でられ腰砕け
尖った気分酒一杯で泡と消え

堀本のりひろ

会員作品を読む 2025年10月 西田雅子

第50回会員作品から

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