今日の一句 #733

白鳥の眠りの底の底の白
大野風柳


眠りの底の底。
そこには、羽よりも雪よりも白い
一点の曇りなき世界が広がり、
白鳥を、さらに自由に羽ばたかせているよう。


一句は白にはじまり白で結ばれ、

再び白へ戻っていく。
眠りと目覚め、夢と現実の無限ループへ
やわらかにとりこまれ
不思議な浮遊感覚を楽しみつつも
その白にうっすらとにじむ
白ゆえの哀しみのようなものにも感じ入る。


作者の大野風柳氏が昨年11月6日に97歳で永眠された。
新潟を拠点に「川柳文化発展に尽くした生涯」として
川柳界の内外で惜しむ声が続く。


大野氏は1928(昭和3)年、新潟に生まれ、
弱冠20歳で柳都川柳会(後の柳都川柳社)を創立。
翌年には「柳都」を創刊し、昨年1月に終刊するまで、
実に75年以上にもわたり生涯主幹を貫かれた。
全日本川柳協会の前理事長で川柳書の著作も多数。
長きにわたりメディアの川柳欄の選者も務められ、
作家として、指導者としての多大な功績は
ここに記すまでもないけれど、
個人的な、思いがけないご縁についても
少し触れておきたい。


ちょうど10年前、神戸文学館でこんな展示が開催された。
『昭和の川柳百人一句展 ー見つかった幻の句集からー』
(2016年1月29日~3月13日)


幻の句集とは、大野氏が1981年に手掛けられた
当時の気鋭の川柳作家100名の色紙によるアンソロジーという
大変ユニークなもの。
『現代川柳百人一句集』と銘打たれ限定500部のうちの1部が
時を経て人を経て、たまさか私の手元に届き、
神戸文学館で展示されるまでにいたったのは
今にしてなお感慨深い。


その取材と準備のために、
新潟へ出向いて初めてお目にかかった大野氏は、
評判どおりの気さくてあたたかいお人柄で
示唆に富むお話をたくさんお聞かせくださった。

そんなお人柄と風土に根差した作品を
改めて味わっている。

 押し花に小さな風がやってくる
 蟹の目にふたつの冬の海がある
 蛍も雪もみんな五七五でした

(『定本大野風柳句集』大野風柳/柳都川柳社 1998)

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