日盛りに誰かの蛇になりに行く
母という毒のまわりがゆるくなる
誰のたましい水色の蝶がわく
阿川マサコ
あじさいもあせた月夜の歯肉炎
邪気まとう緑うかうか愛せない
あと少し腐らせてから捨てましょう
浅井ゆず
アマゾンの女になってEメール
南米のパリと呼ばれて振り向いて
マンゴーの降る日のプール指導中
朝倉晴美
新しき帆を大空に刹那主義
私の尾びれこの波が大好き
赤信号黄信号七月の迷走
海野エリー
あの子だけ包帯巻いてる蛍来い
オニヤンマやんのかおまえ言ってみた
鍵っ子が鍵を忘れたカタツムリ
おおさわほてる
ピアスになる前のキリンの赤ちゃん
判決文 小鹿のように立ち上がる
手袋のまま歯ブラシを咥えてる
岡谷 樹
空回り健気な渦が出来ている
現実をふわりお伝えしてばかり
紫陽花に抱かれ雨になるわたし
小原由佳
向日葵が笑い転げる無人駅
盛り土を捲れば雨月ものがたり
手のひらを返したように梅雨が明け
笠嶋恵美子
嫁入りの桐のタンスの中は森
カッコウが鳴いて正体現れる
チューナーを合わせば君とお友達
川田由紀子
月光に仄めかされてメンテナンス
コンビニの夜のさみしい水族館
臨終のこんなお祭り騒ぎとは
河村啓子
ヴィーガンを気取り祭の輪を抜ける
空き瓶の微かな匂い抱く両手
逆上がりカッターの刃を折る勇気
菊池 京
勝ちに行くポルカドットのワンピース
赤信号 私はいつも前のめり
軍鶏のとさかのごとく紅を差す
黒川佳津子
手を洗う祈りのかたちアヴェ・マリア
パトカーに盗み笑いを指導する
りりりりりりりりばうんどどどどよん
河野潤々
夏の夜の動詞はふわり動きだす
くるくると固有名詞のかくれんぼ
体内をしゅわしゅわ出入りする返事
斉尾くにこ
遺伝子組み換えじゃない！と叫ぶ市農協
エコとロゴ詩歌合わせの紀伊國屋
生協の微熱にちょっとトイピアノ
澤野優美子
なんてことないのよ傘は二本ある
真夜中を走るときどき対向車
この味がいいねと笑う変異株
重森恒雄
裏側を彫刻刀でほってみる
人間の奥のほうから半夏水
わたくしに桃をいっぱいくれた女
芝岡かんえもん
美しくサラダを残す処世術
七月の無職のままの雨宿り
惜春歌 こころに未だ自傷痕
昌善
うすい爪うすい幸かと切り惑う
梅雨明けの虹の成分はっか味
掴まえたこぼれて落ちた夢の先
妙
お寺の向こうにはなにがあるのか
ケーキ焼くぼうぼうと汽笛鳴る
恥部を晒せばらんらんと魚の目
千春
そらいろの箱を並べる雑貨店
濃い影を持つ人といる炎天下
ほどかれて蝶が生まれてくる祭り
西田雅子
口笛が呼んでしまった雲おろち
風鈴の問わず語りの小休止
ほろびるか 否へ転じて葛桜
芳賀博子
ドクダミの下でひそひそファン集う
睡蓮のざわめき吸ったあと無口
あの電柱までと独り遊びがうまくなる
林 操
ワクチンの賞味期限が切れぬうち
当事者間の右往左往も興のうち
副反応はひとをえらんでいるんだね
飛伝応
右向きを非難している左向き
追憶の海は泣きたいほど青い
ナイフにも手にも足にもなる言葉
平尾正人
すれ違うマスク振り向きもせぬ友よ
会えぬまま彼は三つになりにけり
目はそぼろ耳はザルそば二本足
弘津秋の子
元カレの一位はトムヤムクン風味
ゆうれいになれるドレスのいい香り
濁流がきれい はなはだしく恋だ
藤田めぐみ
ハンガーに鷹を訪ねていくかたち
赤ちゃんを狙う十台のスマホ
日傘くるくるおじさんも街をゆく
藤山竜骨
割り込みはされるは灰汁にまみれるは
南京錠壊して逃げたユリの蕊
ウクレレも猫のトイレもある書斎
宮井いずみ
捨てた日よりぴかぴかでいるうさこちゃん
戻れたら最短距離で会いに行く
背負いたい重荷を見つけ出しました
本海万里絵
さっきから頭の中を金魚たち
４Ｂで書くと真っ赤になるホント
鍋の耳すます豆腐売りのピーポー
森平洋子
逡巡の岸辺に今もあるポスト
評決のうしろで虹はまだ無色
天命の糸コミカルにもつれ出す
山崎夫美子
次の世でお会いできても無視します
べた褒めのあと「冗談はさておいて」
あいみょんが好きだガースー大嫌い
吉田利秋
絵の中の白馬に乗っていた昨日
もう一歩ふみこんでみる巣の繁み
人みどり雨の匂いと陽の匂い
吾亦紅
