今日の一句 #766

ぬくもりが残る王者の椅子がある
徳道かづみ


状況だけが、問いかけのように提示されている。
王者は譲位か、敗退か、
ただ席を外しているだけなのか。


作者と王者の関係性も読み手にゆだねられていて、
王ではなく「王者」であるのが、よりドラマを深めている。


ただ、句のトーンはおだやかで、

私のなかでは、こんな情景に落ち着いた。

圧倒的な力で王者となった主(あるじ)が、
歳月を経て静かに退位する。
その不在に触れ、寂寥につつまれながら
これからに思いを巡らせている。


椅子に残るぬくもりは、
王者が愛をもって、最後まで行く末を案じていた証とも。


願わくば、空いた椅子が
新たな争いの火種にならないことを。


(句集『カメレオン』 徳道かづみ / 港の人 2020)


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