今日の一句 #559

海の青ひとつぶ耳にぶら下げる
木本朱夏


JRの車窓に秋の海が広がる。
地元の乗り慣れた電車なのに
海はいつもひととき感傷を誘う。
九月半ばになってもまだ真夏日。
それでもやっぱり海は秋の青。


ふと掲句がよみがえる。
どの季節とも語られてはいなくて、
だから、口ずさめばその季節の風が吹く。

海の青ひとつぶ。
耳元に揺れるのは、たとえばサファイアやブルートパーズ。
あるいは、そのまま抽象的に

青ひとつぶを思い描いても、絵になり、
「ぶら下げる」の、ちょっとしたやさぐれ感が
その絵をものがたりにする。
ぽつんとひとりのさびしさ、みたいなものが
青の透明度をいっそう際立たせて。



(川柳句集『転生』 木本朱夏/2005 私家版)

    

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