今日の一句 #586

電線にいっぽん混じる龍のひげ
なかはられいこ


ほら、と句が指さす方向を見上げてみると、
あら、ほんと。
ちょっとナマっぽい揺蕩い方をしている
いっぽんの線をたどってみると、
そこには龍の姿あり。
ひげに止まっておしゃべり中の雀たちは
まだ気付いていないみたいだけど。

ところで龍といえば、
春分の頃に天に登り雲を起こし雨を降らせる、
という中国の伝説から、
俳句では「龍天に昇る」という春の季語がある。

もっとも本作の龍は、
体躯もながながと空に揺蕩い、
春眠をむさぼっているふう

なんて、私の景は勝手にふくらむばかり。
でもきっと龍は私のごく日常の空にも泳いでいて、
けれど、ふだんは見えない姿を
ことばが見せてくれた。


今日の一句、出典は今年2月に発行された

「川柳ねじまき」最新号。
特集として、発行人でもある、なかはられいこさんの

句集『くちびるにウエハース』の
批評会のもようもたっぷり収録されています。

 仮に地球だったらと青蜜柑剥く   青砥和子
 小吉が跳ねるフルーツバスケット  岡谷 樹
 夕暮にくっついている柿の種    妹尾 凛
 菜の花の海に溺れてからひとり   丸山 進
 膝ついて見るまだ咲いていない白  八上桐子
 椋鳥と常連客を避けて秋      二村典子


(「川柳ねじまき #9」 ねじまき句会  2023年2月)

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