2023年5月

春の宵ブリキの金魚空を飛ぶ
みだらな白にくるんでおいた恋愛記
抹茶風味の空をたたんでオルガンに

澤野優美子

空青く棘あるものの背が伸びる
辞任して乗れないままの一輪車
寒い寒い夜の息をしている

重森恒雄

幸運を英語で言えばスーパーマン
幸運を自分で言えば仲間たち
幸運を世界で言えば日本人

杉山昌善

嘘吐きな高嶺の花を摘みに行く
予言者ふたり雨はさっき上がった
ファミレスのみんな違った臍ピアス

須藤しんのすけ

悪役も主役もできぬかすみそう
逆光に想いをかくす花の下
サクラサクワタシハココニイカサレル

ラニーニャは年の離れたおともだち
ボクたちはスチール缶とアルミ缶
ここはやっぱり紅葉おろしの出番だな

浪越靖政

階段が折り畳まれている手紙
ラメ入りの等圧線を編んでいる
石鹸で洗う誤読をされぬよう

西田雅子

藤井風的気分で桜になる
夕焼けが吸い込んでいくいけない子
5月、その明るさは嘘まみれ

西山奈津実

一反木綿ひらりと甘夏の匂い
いただいた目高微増と追伸す
新米の樹木医突っ立ってアイス

芳賀博子

嘘を吐くちょっとスパイシーな香り
泣いてばかりじゃ午後の茶会に間に合わず
今日をまだ引きずっている「ロストケア」

林 操

AIが迷路のような指示を出す
AIの進歩にAIが悩む
AIも昼寝が欲しい春うらら

飛伝応

うまい嘘つけたな記念日にしよう
さざ波のさざの程度がじれったい
肩書きが付いて外れている四月

平尾正人

春うらら聞こえるふりをしてしまう
ケケケケキョ子ども三人生んだはず
新しい簾 会話の無い二人

弘津秋の子

家出でもしようか春の紙鉄砲
常温のクイズで結露するあたし
確変はこれから熱の指触れて

藤田めぐみ

一線を越えると弾まないボール
履歴書がほうれい線に刻まれる
貰われていく茶道具は凛として

藤山竜骨

満員電車お疲れ様ね都人
ミサイルが飛び交う空に白い鳩
春光浴びタケノコぬっと競い合う

堀本のりひろ

一日の終わりの水とヨガマット
持ち帰り用の春ですたんぽぽは
ぬまは群青さとりはまだ途上

宮井いずみ

八十路越え背筋を伸ばす赤い爪
春秋のかなた小さき喉仏
これからはほんわか生きて溶けてゆく

もとこ

ただいまをおおきく言ってみるひとり
わたしから寂しさを奪わないでね
こんなにもキラキラしてる最終回

本海万里絵

薫風に鳥の折り紙ときはなつ
ぼた餅とおはぎを分ける二元論
最後からついていく「ん」の字みたいに

森平洋子

れんげ田に寝転ぶやがて柩めく
春雷に追われ追慕を横抱きに
千体仏のひたすら春を惜しむ雨

山崎夫美子

売約済みのシールの付いた私の書
親戚の強い絆のシールです
百万円と言っておきます四月馬鹿

吉田利秋

不調の層でできたマウント・フマン
くちびるの「もう辞めたい」を月は呑む
ホメオスタシス不足の冬一掃セール

四ツ屋いずみ

春の鬱 風船ガムを膨らます
郵便ごっこ葉っぱの切手風運ぶ
気付かずに暮らす家族と言うご縁

渡辺かおる

しんしんと空の重さを語る尾根
起ち上がる痛みこわばり杖にして
陽だまりの母から溢れ出すさくら

吾亦紅

煩悩のみずみずしかった頃レタス
お祈りはぽたぽた緩衝液あふれ
スイトピー少しは鬼であることを

阿川マサコ

花吹雪明日からまたひとりです
葉桜になってもレッスンは続く
ほつれても私やぶけても私

浅井ゆず

わたしウイスキーがお好きなのよ今日命日
薬師丸ひろ子聴きながら後悔を舐める
南米の踊りが好きよ命日も

朝倉晴美

神様の選択権がない人事
一年を百字以内で評価せよ
四月から天使の羽が生えました

伊藤良彦

お試しのリップをひいて嘘を待つ
あざとくて何が悪いの才能よ
列島をフォーカスしてる大なまず

稲葉良岩

感情のすみずみ薪がよく燃える
探しものサモトラケのニケ欠けている
夕焼けを拾うブレーキかけながら

岩田多佳子

充電後の予定に泣くはありません
茹で過ぎのパスタ個性というメニュー
妻の手がきれい苺盛ってから

海野エリー

花水木大きな扉を開け放つ
君の目に燕が映る君が好き
チューリップ今太陽を飲み込んだ

おおさわほてる

クラクションゆうべもお会いしましたね
眉間にもブラキストンのライン引く
つつがなく自由な空に浮くイルカ

落合魯忠

QRコードで姫のお召し物
役所にも私にもある秘密棚
決意表明末尾に添える力こぶ

小原由佳

お多福の面をつけてもまだ寒い
嬉々として拾い集めている新語
アスパラガス青々として折れ易き

笠嶋恵美子

塵紙の桜吹雪の中を行く
泡立てるTikTokの15秒
雲雀鳴く頭上の事は頼んます

川田由紀子

長靴を履くとき明後日まで揺れる
パン載せて頭はピンクの時代

河村啓子

日めくりの指がたびたび座礁する
言い訳は左脳の森の温暖化
思慕恋慕花のテレカの穴の位置

菊池 京

先生はスペイン私は鬼怒川
アニメの誰か似た声の人坂の上
エリーゼのためにが悲し朝6時

北川清子

白木蓮静かに咲いて散れぬわけ
桃ゼリーやきもち焼いてみたかった
外は雨 私は夜を引き留める

黒川佳津子

先生は行きずりだからこそばゆい
喉ごしは不束でいう最初のつ
ナラティブに養豚場の豚を挿す

河野潤々

通底に天然物の獏がいる
メッセージなら縞馬のバーコード
春の朝やわらかにゴルゴンゾーラ

斉尾くにこ

総 評 2023年5月 西田雅子

会員作品第22回をお届けします。

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