2023年10月

白紙切るオペラの絵具さあさあさあ
流れゆく留まっている水の時間
今この炭の黒終止符を打て

北川清子

どうしようもない直角の寂しさ
鱧天でも作ろ 月が美しい
殺し文句の切れ味試したい月夜

黒川佳津子

桃鈍く倦んで同心円の芯
避雷針だから明日もそっぽ向く
カモメ舞うプラチナ線の影曳いて

黒田弥生

大数の法則中の毛穴のかたち
落ちこぼれてこぼれ落ちる時間軸
立ち往生するダフ屋を助けたの

河野潤々

雨粒は雲ぎんこうでドロップス
長雨の両手に抱かれねむる午後
金鳥の渦巻きチャレンジはつづく

斉尾くにこ

私家版の整理ついでにルートイン
御無沙汰は目分量だしおこげだし
すうどんでっせどうでもいいをひたかくす

澤野優美子

初盆に詫びるでもなく虻が来る
蓬と別れ鮒寿司の嫁に来る
勝てばよいだけのゲームに風が吹く

重森恒雄

本心を試されているキリギリス 
半熟になってしまった我が記憶
地球から八十億がこぼれます

杉山昌善

口移しした氷のトゲを削りおり
動物の鳴き真似をする禁猟区
たぶん今、高度三万フィートの私

須藤しんのすけ

アルプスハイキング太ももは初級
独り言チーズフォンデュに絡ませる
時を食み優しい顔の牛の群れ

寝落ちして見知らぬ街へ来てしまう
よくごらんハンサムなスズメバチ
オノマトペ並ぶ初秋のフルコース

浪越靖政

静けさの泡立つ朝の交差点
風になる話ばかりをする人と
むらさきの歴史を語るムラサキシキブ

西田雅子

シンバルをひとつ打つためのいちにち
吸盤を持っているらし秋の嘘
かきまわしてもかきまわしても私

西山奈津実

下描きというか面影というか
そこまでは疎んでおらず後の月
秋桜博士もさびしがっている

芳賀博子

チョコがかかっていなければ偽物だ
怒りに満ちた夜風で裸体を研ぐ
お気に入りからうさぎにされる

橋元デジタル

萩揺れて元に戻れぬ白狐
ひたすらに我が道を行くけもの道
まあまあと豚バラ肉のような人

林 操

戻っては来れぬ冥土で踏むたたら
大相撲番狂わせにヒマがない
秋は来ましたか冬は来るのですね

飛伝応

推し活にはまる妥協は許さない
飲み込んだ言葉暴走する正義
演じ続けるキャラは自分を守るため

平尾正人

明るい目暗い目秋の風ふわり
高卒だと語る80歳の友よ
お隣りの名が出てこない立ち話

弘津秋の子

らしくない饒舌始まってしまう
待ちわびた記憶ひとりの露天風呂
遠いあなたをでろりと剥げた夜に埋める

藤田めぐみ

おばさんと鯵は開いたままがいい
暑くって死にそうですと棒アイス
目標に十歩足りないスマホ振る

藤山竜骨

大仏様大きなお口子守歌
診察待ち悲喜こもごもに目が泳ぐ
AI増えて考えぬ葦増加中

堀本のりひろ

ショッキングピンクをやんわりとディスる
探偵の目をしたシロナガスクジラ
害獣に過ぎぬ三面鏡の顔

真島久美子

ぢいちゃんの炒り子の匂いするジョーク
ぬかるみにはまる素振りの千日目
握りしめた手の跡残るほうきの柄

宮井いずみ

難産の子を捨てに行くゆに句会 
手放したピアノに出会う北空港
寺巡り良からぬ事を思いつつ

もとこ

お弁当を食べたり風を飲む正午
筆圧で波打っているきみなでる
仕方ない半透明の足である

本海万里絵

休刊の知らせが届く秋一葉
手品師と腹話術師の住む炉釜
星の飛ぶ跡形もない予定表

森平洋子

まだ青いどんぐり家族の会議録
極まりしわれら木洩れ日同好会
晴れた日の森に主人公がいない

山崎夫美子

コインロッカー引換券が見つからぬ
若ものに案内されて着くホテル
血圧を測った浪江町役場

吉田利秋

逃げ水の温度そのまま北へきたまえ
いざよいの虫聞きもっか公募中
晩鐘にアレグレットのソルベ添え

四ツ屋いずみ

耳を当て犬の心音聴いている
命の音押し出し巡るドドドドド
懸命に生きる一緒にいつまでも

渡辺かおる

十薬の白さは亡母の伝言版
道なりに曲がりくねっている主張
金色にはじまり雪になるこの世

吾亦紅

夕暮れは鹿のかたちを追いつめる
表現の荒野横顔に目がふたつ
喪にふくす夜のパンには缶コーラ

阿川マサコ

進撃の巨人も止める葛の蔓
草の実の転地転職お手のもの
阪神のアレと私のアレとの差

浅井ゆず

月の客リュートの弦が切れている
寿ぎも会計も拒み敬老の日
曼珠沙華あの子もこの子も夢の中

朝倉晴美

低音の足りぬ身体にビターチョコ
大阪のおばちゃんのアメ流れ星
何もかもワカランなったヴァイオリン

石野りこ

秋の風離婚届の証人か
占いのとおりに生きる秋の虫
秋の空誓いの言葉嘘にする

伊藤聖子

心臓を止めて命の声を聴く
脈拍の音で生きるを許される
病院の壁を再び見るなかれ

伊藤良彦

書き上げた句箋で文字が欠伸する
ミーハーも月曜の朝スーツ着る
価値観を問い詰めてきた逆さ富士

稲葉良岩

詩よりも深くアルタイルかもす息
さぁここでビロード状に差し掛かる
アルファ波たまる下駄箱あけ放つ

岩田多佳子

暑いとだけ言葉いらずの亜熱帯
秋風はたぶんB面に紛れたよ
百までは浮かばぬしたいこと一覧

海野エリー

立秋と言ってたちまち馬となる
着信は確かに露草からだった
サイコロを割れば銀河の見え隠れ

おおさわほてる

ビル買いたいビル解体とうねる街
坂道に心理テストが置いてある
忘れてもいいけど月は出ていたよ

小原由佳

合歓の木を揺すり続ける流星群
言い訳のずしりと重い砂袋
雲海へ萎えた心を解き放つ

笠嶋恵美子

秋冷や拾い集める銀杏臭
一人でも月がきれいと声に出せ
神と見る深夜のテレビショッピング

川田由紀子

円周率は3 男子エコバック
多数決どっちなんだよ曇天よ
視野狭窄ドミノの列と気付かずに

菊池 京

会員作品を読む 2023年10月 芳賀博子

第27回会員作品から

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