2023年12月

もぎたての柚子ジャムを塗る未来
黙契の夜の金魚とシャンパンと
火傷Ⅱ度黄昏の曼珠沙華

河村啓子

合いがけのカレーの意味を説く睫毛
塩水選やっとフルネームで呼ばれ
冬螢もうやめていい鬼ごっこ

菊池 京

今ここはだってトーキョーステーション
丸の内スカーレットの待ち時間
この銀は金よりも映え冬月夜

北川清子

風吹いて風の心地の夜となる
思い出を語る手回しオルゴール
謝れば済むことなのに零れ萩

黒川佳津子

黒ミサはるつぼぐつぐつ煮る小豆
くちびるにララバイどこまでの砂漠
会いたくて夜間飛行の瓶翳す

黒田弥生

蔓梅擬の仮種皮に雲切れて
リンダリンダとウォシュレットのムーブ
ほつれた線と居合わせた女性客

河野潤々

猛ダッシュして自画自賛×3
ぷぷるんと振動 風のテレパシー
「よい年を」なんて誘惑しているの

斉尾くにこ

マヌカの羽音はやり病を眠らせる
土曜日の本に捕まる源氏パイ
たたかうマカロン短音階に紛れ込む

澤野優美子

煙突も門も含めて売りに出す
腕時計みたいなもののネジを巻く
恋をするドボルザークを知らぬまま

重森恒雄

伯父さんに下駄を預けて それっきり
ネジを巻く怪しくなった腹時計 
君を抱く冬の蛍の隠れ宿

杉山昌善

細く描く眉に女という微罪
わたくしはまあるい息をはいている
爪立てて男の日傘まで濡らす

須藤しんのすけ

結界がはずれてからの天城越え
大ぶりの刺身どどんと北酒場
ここからは津軽海峡冬景色

CTとMRIの監視下に
とりあえずこれでと渡されるコップ
生き残る善玉菌になりすまし

浪越靖政

アップロード、ダウンロードと月の道
まぼろしを追いかけ伸びてゆく睫毛
花びらと同じ温度になる言葉

西田雅子

夜を重ねてワタクシという球体
貌ひとつふやそうだって満月
やぶつばき人体という暗渠

西山奈津実

筆圧に一喝されて十二月
つけたまま冬眠できるコンタクト
一人ずつ正体明かすちゃんこ鍋

芳賀博子

すっぴんのスコーンがいてもいいじゃない
月初から買い足している孤独感
落城の日を、火を、覚えている砂

橋元デジタル

この冬の覚悟はできたか黒い雲
休戦中風に吹かれて顔上げよ
新天地土に還っていくための

林 操

自販機のような身体でコケてはる
数合わせ作句に薄く塩を振る
さて七五三です ほらね五七五

飛伝応

結論が真逆言葉が切り取られ
うなづくだけでいいのに大声で笑う
きれいごとばかり口から洩れるのは

平尾正人

恙なく落ち葉集めし秋日和
川柳と固定電話の好きな奴
求む!川柳日めくりカレンダー

弘津秋の子

個包装の淋しさ持ち寄って気楽
つまんない君の完璧かじったる
ドライマンゴー答えの輪郭だけ残る

藤田めぐみ

洋服に身の上話する和服
それではとサラリーマンを入れる箱
日本の唇ぴーちくぱーちく

藤山竜骨

遠き昔妹と遊んだおままごと
元気かな遠くて逢えぬ妹思う
旅半ばほっと一息露天風呂

堀本のりひろ

ジュラ紀からどんぐり個個個手のなかに
水面に枯蟷螂として映る
∞ へと手を伸ばしてはなりません

真島久美子

浮くことを忘れ道頓堀の泥
奇人変人ヘンだと感じない茗荷
どんつきの壁が扉に変わるとき

宮井いずみ

脳内の未来に植える日日草  
この私シュレッダーにかけ紙吹雪
秋の夜君のバイクを聞き分ける 

もとこ

こっそりとおしえてあげる滅びかた
あげたいのあげたいのきみにだけだよ
ちょうどいいひとりぼっちの分量だ

本海万里絵

手のひらで木漏れ日掬う救われる
いつだって賛否両論マーブルケーキ
空を編み秋の手触り確かめる

森平洋子

決起集会やがて氷雨に変わる頃
ふるい落としても一縷の正義感
芒野のまだ終わらない隠れ鬼

山崎夫美子

孫できて女流のプロの棋士と決め
じいちゃんも大きくなって聡太くん
白旗をあげて必殺王手飛車

吉田利秋

チャイ効果たどり着きたる午前2時
うかうかの間隙六花の思うつぼ
おじけずに翔んでおいでとペールムーン

四ツ屋いずみ

冬布団犬と一緒に朝寝坊
素通りは出来なくなった道の駅
優勝セールどうぞと譲り完売し

渡辺かおる

白百合も小菊も母も雪を嗅ぐ
子を探すグラデーションの夕陽坂
路地裏も風の強さを心得る

吾亦紅

名画座にケサランパサラン湧いてくる
粘菌と自尊感情競い合う
伏線回収黄落の大伽藍

阿川マサコ

降り立つと明るい月に出会う駅
秋時雨なにはともあれ虫供養
葉を落とすように古着を処分する

浅井ゆず

ラデツキー行進曲息子は初恋
十五歳猫と海を恋うている
猫を飼う相談独り暮らしのひとり息子

朝倉晴美

しあわせが私を探す十二月
譲り合い一ミリもないゼリビンズ
購入する カートに入れてあった空

石野りこ

欠けかけた月に話しかけて朧
美と味の両立エディブルフラワー
須雲川 飛んでない Night 黒たまご

伊藤聖子

信号はきっちり守る飼育員
本日の仕事のようなティーバッグ
僕の声無かったことにして明日

伊藤良彦

偽善者が鳴らす喇叭は心地よい
俯いて落ち行く種に託す花
二足歩行見つけ育てた神の悔い

稲葉良岩

のびきったジョークも入れる紙袋
積木くずれか ほったらかしの町なのか
老犬のシッポ余力をもっている

岩田多佳子

胡桃割るマナーモードにしたままで
口角は無理やり上げるレモンティー
月白し地球の熱は定まらず

海野エリー

面接は金木犀のする丘で
右脳には右脳の言い分林檎喰う
青空のゴジラの背中柿たわわ

おおさわほてる

一族を描けば黙ってないほくろ
渦巻いて踊るやりたいことリスト
山彦もつれない時があって 雨 

小原由佳

鐘一つ撞いて秋を送ろうか
熱い息かければ芽吹きそうな指
切り株にはらり紅葉の置手紙

笠嶋恵美子

イボコロリここからいよよ華やいで
インスタに上げるあなたの裾模様
六道の辻でバトンを渡される

川田由紀子

会員作品を読む 2023年12月 芳賀博子

第29回会員作品から

続きを読む‥