2024年9月

幽体離脱パントマイムの夜明け
足りてないビタミン貰う絵画展
毛穴から入っていった蝉時雨

伊藤聖子

悪役になって未来を変えようか
台本の中で勇者になれる僕
人間の生死は紙にだけ残る

伊藤良彦

石ころも夏の面して日に当たる
補陀落の慟哭熔かしゆく酷暑
帰納法ばかりでできた顔並ぶ

稲葉良岩

一冊の月の裏へと飛行中
帆をあげる夏を濃くするジャズつれて
つぶつぶの花椒風情にあこがれる

岩田多佳子

折れ線の山に沸点あったはず
エピローグ経口補水液を追加
本能の低温熟成秋を待ち 

海野エリー

踏切がはにかんでいる夏の君
こんな日は水からもらった虹を飲む
夏の月三角屋根に突き刺さる

おおさわほてる

大陸のかたちに滲む汗の夢
相応の事情相応の言い訳
夕焼けを色止めしてるわからず屋

小原由佳

忘れ癖ついてしまった花茗荷
罅われた湯呑とながいおつきあい
喪の庭を満たしてくれる白い百合

笠嶋恵美子

話し相手がほしい青いペディキュア
雑音がする感情線のあたり
暦が還り方舟の帆を上げる

桂 晶月

スパイシーカレーと別れサングラス
一角獣何故か私にすり寄って
調合は青洲様の言う通り

川田由紀子

とじ針の遠い目をする白粉花
一匹の前脚を折る牛蛙
灰汁を抜く民主主義やら芋茎やら

河村啓子

物言わぬ線香花火増やし秋
鉛筆にキャップがあって平和論
カルダモン君も媚薬のなり損ね

菊池 京

どの緯度でどの経度でがお望みか
着地してどうにか立っていた真昼
叱られて叱られて消す組織点

北川清子

牛スジも恋も煮こぼすのが極意
恋人にねだる台湾かき氷
時々は炎になって困らせる

黒川佳津子

テラス席の隅に居座る雲晩夏
公房と運ぶ九月のパイプ椅子
浮草とアクアリウムに朽ちるまで

黒田弥生

カンテからポニーテールをはみ出して
関西のダシは7掛け read more
ご長寿のリスクへ磨く愚行権

河野潤々

空屋から鰯雲入荷の知らせ
何してる何もと返す波の音
自画像は月光荘のアトリエで

斉尾くにこ

夏おわるころの蜜度のたかい季語
電チンの輪唱おべんとうばこのうた
小金井の小鳥の好きなココナッツ

澤野優美子

向日葵を見に来る虫のひと家族
暑いとも思わず竹の柄に潜む
羽化をする左足でもシュート決め

重森恒雄

尻尾との短き別れ黒蜥蜴
歓声が沸くのがわかる向こう岸
永き春ワサビ卸のような君

杉山昌善

紫蘇の葉の短い夏を吸い尽くセ
三度目の告白四度目の家出
土砂降りの中でジルバを踊っていたわ

須藤しんのすけ

妻と毒 女と母とよく似てる
届かないボールを投げる始球式
死屍累累算盤の下手なプーチン

田尾八女

昨日まで案山子であったきみなのに
今日からは経帷子として生きます
明日には崩れ去る蝉時雨

たかすかまさゆき

こめかみの起爆装置が動き出す
コピペした理論武装が剥がれかけ
音程の外れたラッパ鳴る五体

浪越靖政

祝祭の更地に置いてきた真昼
勾玉の中にも雨が降りつづく
コスモスのダンス トレモロの着信

西田雅子

ブロッコリーが総出で来たら負けね
かきまぜてさてどの辺がお留守番
サーキュラースカートで隠せるほどの八月

西山奈津実

はしっこの取り合いとなる秋彼岸
除光液しばらく泳がせる嫉妬
邯鄲の法話ほろんと酔いざまし

芳賀博子

みぎひだりとにかく前へ右左
終点までをのんびり出来る時が来た
大都会深く深くと潜り込む

林 操

歩道行くチャリに半歩の圧をかけ
高気圧ガールけたたましいほどに
最前列で前後に受けているよ 圧

飛伝応

生と死はちょうどコインの裏表
迷い出すゼブラゾーンの真ん中で
取り扱い注意男の更年期

平尾正人

発熱の夏よニッポン亜熱帯
電話予約車内待機クリニック
秋生まれ優しい秋を捜査中

弘津秋の子

目薬をさすとほんのり幽体離脱
背中から抱かれ私が露出する
ゲリラ豪雨それでも彗星になろう

藤田めぐみ

小さくて発熱量を売りにする
圧力に屈してカップ麺の昼
哀悼の誠になっている背骨

藤山竜骨

入道雲雷連れて空を喰う
黒い雲悪い知らせか腹くくる
七夕にたまの逢瀬の天の川

堀本のりひろ

まっすぐに志望動機を言う老女
秋だねとタンクトップがつぶやいた
八月の金魚鉢から活断層

真島久美子

甘さ控えめ宇治金時の不感症
言い過ぎたガリガリ君の舌ざわり
蜜豆のミカンくらいでおしゃべりで

峯島 妙

バラ以上のろい未満や夏の雨
満ち足りてもっともっともっと林檎
昂然とスカラベ油照りを行く

宮井いずみ

ヒグラシや冥途が近づく風の盆
猫ホテル肉球を押しチェックイン
シートベルトつけてもらって老いを知る

村田もとこ

なんかこう名前をつけたいんだけど
偶然にこの輪郭で生きている
おみやげはぼくをむかえにきたらしい

本海万里絵

ほおずきを三つ並べて遠い月
行間をスイスイ泳ぐ熱帯魚
水を遣る少し淋しい親指に

森平洋子

くねった先に妙に歪な赤い花
余計な事は左の脇に積んで置く
四角い西瓜いたずらとしか思えない

森 廣子

つつましく生きて酷暑のひんやりグッズ
今日だけは火垂るの墓の景に入る
逃げ切ったはずの背中に夏日延々

山崎夫美子

宮崎地震の翌日行ったスカイツリー
新幹線は向かいのホームから出ます
帰宅して神奈川地震発生する

吉田利秋

呪文三唱月明かりのベランダ
ペースダウンあそばせ ユアマジェスティ
絽の袖に残り香 つきは隠れたり

四ツ屋いずみ

妊娠線 私が産んだサプライズ
犬年齢私の歳は追い抜いた
老い桜メンテナンスに励む秋

渡辺かおる

さよならの手前で香る友の声
幾世代 忘れた空に咲く右脳
土曜日を曲がると夜の長い雨

吾亦紅

魂の正中線にある挽歌
地表より湧き出すヴィラン爆心地
手花火の昏さみつめる四つの目

阿川マサコ

炎天にジュッと蒸発淡い夢
生温い世界よガラス戸のこちら
立秋とや田水煮え立っています

浅井ゆず

知っている猫は何でも婚家の謎
真理ですうちの猫のいうことは
丸眼鏡似合う笑わぬ二十歳の子

朝倉晴美

塀の猫 千年くらい動かない
グーグルの手のひらをゆくキント雲
壊します注意ください夏の雲

石野りこ

会員作品を読む 2024年9月 芳賀博子

第38回会員作品から

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