2022年3月

柔らかい肩甲骨のシクラメン
にぎってた母の袂の手を放し
二十年いても田舎じゃ他所(よそ)の人

毬 じゅん子

薄氷を割ってどうでもいい話
さりげなさ装い船を待っている
如月の光ですべて浄化せよ

宮井いずみ

グラニュー糖まぶせばみんなお菓子なの
思い出ですか?幽霊ですか?こんにちは
羽ばたいてごらん浮力をあげるから

本海万里絵

ただいまはルンバステップ春の風
おかえりはボサノバソング鍋の音
さよならはムーンウォーク月の船

森平洋子

半身は水母に触れたような春
文字化けを許す二月の相聞歌
リセットのボタンは銀にくるまれる

山崎夫美子

実行のキーを忘れて待つガスト
エレベーター開を押したら開くトイレ
ミサイルがハワイ上空飛んでいる

吉田利秋

音符はじけた頭蓋骨マッサージ
とことんとつき合いますと2時の月
集中しなきゃ、彷徨えるPINコード

四ツ屋いずみ

母と娘をつなぐ長靴だった頃
ニンゲンはとても正直 乱反射
空の色 人間性が映ってる

吾亦紅

シュレーディンガーあの世の味を知っている
日本語に訳して効き目ある余白
春虹のカーブ『わたし』を駆逐する

阿川マサコ

北北西の風だ余生も甘くない
如月の光と翳とオミクロン
ひなあられ間の悪い鬼やって来る

浅井ゆず

早春の匂い嗅ぎ当て阿佐ヶ谷姉妹
早春の半野良猫に媚びてみる
青春早春どっちもおしりむずむず

朝倉晴美

嘶いてブータンもどきの朝にする
木蓮に二の腕洗ってから返す
五輪ゴリンいびつな引き戸まだ押して

岩田多佳子

意のままに切りとるアルバムの笑顔
余生とは言わず合鍵そっと捨て
青空というやさしさを頒ちあう

海野エリー

焼野にて少年団が立ちションベン
国会で噂になってる猫の恋
猫の恋女の名前間違える

おおさわほてる

悲喜こもごもに吹くベイジンの風よ
思いきり地球を空に転がして
飛べ飛べクジラ裏返る声援

岡谷 樹

友達の素性は多分エンゼルパイ
くせっ毛と雨をどうにかしてあげて
咀嚼音響いて部屋は広くなる

小原由佳

ポストから噴き出してくる変異株
一言につける尾鰭のありったけ
爪痕をのこして椿落ちてゆく

笠嶋恵美子

落ちていく夕陽を掬う玉杓子
黙食やカレーうどんの汁が飛ぶ
ああせいこうせいと春風に乗って

川田由紀子

たえだえの息を吐き出すボビンケース
薄闇に市を立てよう蕗の薹
くきやかな雛のまなざし未来形

河村啓子

我慢するくしゃみ 小さな揺れとズレ
やわらかい棘が根雪を解かし出す
でこぼこを嫌って粉々のポテチ

菊池 京

茄子切ってピーマン切って吹っ切れた
夫婦って老後がいいのよ缶チューハイ
けすくっせけすくっせって老いてゆく

北川清子

一斉に芽吹くすこやかなる花野
クルクルと傘 論点はずれたまま
七色の紐をつけられ逃げられぬ

黒川佳津子

二合目で製氷皿を持たされる
しがらみて鍋へ豆腐が滑り落ち
東風や愚痴言うまいシウマイバラライカ

河野潤々

個人的楽しみとして風のカフェ
相槌を打つ役ダーツ受ける役
静寂の未明は水でしばし魚

斉尾くにこ

謀叛気になんじゃもんじゃのカバー曲
くちびると似たゼリービーンズの紅
タッパーに夜をつめこみやや恋し

澤野優美子

頬染めて差し出すただの貯金箱
ももいろの花の香りも今宵まで 
ネムクナル薬を飲んでネムクナル

重森恒雄

街中の薔薇をむしっているゴジラ
さよならと云われるたびに夜叉になる
天高く跳ねよ前方宙返り

芝岡かんえもん

再会の電車の窓は開かない
少年と言われて怒る黄水仙
指切りの小指を売ってくれまいか

昌善

五番目の月はスカートに隠す
自販機に話すあなたのズルいとこ
真っ白なパジャマ代わりの彼のシャツ

須藤しんのすけ

閉ざされた何もない日の鉛色
黄昏にジンジャエールの胡椒入り
さざ波のうちにあなたを終わらせる

流星の松前漬が懐かしい
数学を解き直しては脚ひらく
コロッケを冥王星が揚げている

千春

スイートピーへ手紙 筆圧を変える
月冴えて影のクリアランスセール
たんぽぽとタンポポ足したような人

西田雅子

いち抜けて胡蝶菫の砂糖漬
眼科まずしんと気球を見る検査
振り立ててみれば星雲めくパーマ

芳賀博子

行き止まりウユニ塩湖へひとっ飛び
孤食には「ごはんですよ」が埋もれてる
「これでおしまい」篠田桃紅抱き眠る

林 操

こっそりと自分史しのばせて空き家
手品師のように空き家が鳩を出し
モノクロで写真が空き家らしくなる

飛伝応

瞬きをして取り戻す水たまり
降り注ぐ光の粒を探す指
他者の死とリンクしている盆送り

平尾正人

お薬の名前は希望五錠飲む
雪の国雪に護られみな美人
第六感春の扉を押しに行く

弘津秋の子

春以外にはそっぽ向くヒヤシンス
蟹味噌のにおい浮気をしましたね
爽やかな生霊で気がつかなかった

藤田めぐみ

UFOが螺旋階段からひゅるり
平和とはあくびがひとつ又一つ
QRコードが素っ気なく誘う

藤山竜骨

妻小言亡母(はは)が居たかと盗み見る
愛の巣にどっぷり浸かって籠の鳥
甘酸っぱい想い出凍みる寒の月

堀本のりひろ

総 評 2022年3月 西田雅子

会員作品第8回をお届けします。

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