2023年6月

本を繰る本は翼を広げだす
面長な雨 返信の薄化粧
春の果て嵐が丘に駐車する

斉尾くにこ

はつなつの水に映っている僧侶
スコーンにはじいちゃんらしい赤いジャム
あさってをしずかにつつむ離縁状

澤野優美子

ポイントがあるうちの春の面影
茎はともかく蘇る黒法師
夏が来るたった一人を失って

重森恒雄

深爪の訳を問われる父の日よ  
この次は有袋類で生まれます
花に酔う不思議は不思議そのままに

杉山昌善

千の手を伸ばす絵本の鳥逃げた
ねぇ〜ねぇ〜ねぇ〜、早くキスしてここでキスして。
だらしない男 気前のいい女

須藤しんのすけ

オチのない母の話と猫のひげ
ふかふか派カリカリ派にもあんバター
もう少し頑張ってみる基礎英語

満開になるまで素性明かさない
ぽろぽろとエンドロールからおとこ
天国も地獄もQRコードから

浪越靖政

借りてきた明日でいっぱい額の中
この先の虚無に蛍光ペンを引く
荷をほどくように花びら散ってゆく

西田雅子

マッシュルームは夕焼けよりも饒舌
蜜のように裂けめに入るワザワイ
空がたためぬからかたづかぬ春

西山奈津実

新じゃがをまるごと平和利用する
うたた寝を飛び立ってゆく青蜥蜴
海までの直線距離にして薄暑

芳賀博子

一斉にマスクを外すホイッスル
チャンスには綿毛に乗って飛び出なさい
初夏の装い思わず二度見してしまう

林 操

引きこもりから出て行けば使い捨て
高揚感がヤバいぜここは行き止まり
絵を描いた男の舌打ちを聞いた

飛伝応

火葬場の火力を上げられぬ事情
長針の憂いと短針の焦り
斜線また斜線いらないモノばかり

平尾正人

名付け親要りませぬ薔薇園の薔薇
生き切った躑躅よ毒舌に負けぬ
ざわざわの五月おなかのすく五月

弘津秋の子

好きだったふわりと矛盾まとう人
酔い覚めのプリン涙のピューレ添え
さすがねと言ったら寂しそう ごめん

藤田めぐみ

讃美歌にハモる菜の花揺れている
密談をサプリメントにしましょうか
検査値に怯え検索して怯え

藤山竜骨

あの日からひっつき虫になりました
震度五情けないけどダンゴムシ
ひそひそひそ私の耳が象の耳

堀本のりひろ

苺のコンフィ落ち込んでいいんだよ
雨の日の卵サンドはだし巻きで
潮風を浴びてヨットになる扇子

宮井いずみ

アマリリス言いたい事は一つだけ
Mixedと記されたチャオの診察券
イケメンのゴリラゴリラゴリラの写真集

もとこ

8畳のタイムカプセルに住んでます
輪郭を脱いだかたちがたのしそう
さいばしでパスタ食べちゃうずずずずず

本海万里絵

稜線の仮縫いほどく夏支度
見上げれば金魚ひらひら青嵐
あるはずのない傷跡を指は知る

森平洋子

見開きの花野に初夏が横たわる   
ドクダミの白へ宛名のない手紙
藤棚の下で鬼面にすり替わる

山崎夫美子

汚染水薄めてみても汚染水
侵略者の戦車に投げる火炎びん
ウラーッの叫びお日さま消えて行く

吉田利秋

ちりとりに残るいろはをダーニング
引き潮にさらわれてゆく笑い声
新緑くぐるインサイドまで緑化

四ツ屋いずみ

冬布団の中わたしを畳みます
ポケットにマスク残して衣替え
贅沢も節約もせず今になる

渡辺かおる

水匂う ほら、点滅の天の川
逝きてなお生を問うてる水しぶき
次ページは揺れあじさいの銀河系

吾亦紅

無濾過発泡老翁の杜若
煮えばなのどぜう一列まどろみぬ
はつなつの森ぱんぱんの寓話かな

阿川マサコ

余生晩年老後なんとでも言って
伸びすぎた蕨 返事はまだ来ない
雉がケーン鶯ホケキョ 眼がかゆい

浅井ゆず

レイチェルごめんトランジットはパリの夜
五月雨贈るよ君に南米に
午前四時靴紐固くコーヒー温く

朝倉晴美

褒められて脱力感に襲われる
プラモデルみたいに語る組織論
現場から距離を置いたらただの猫

伊藤良彦

幻影をひょいと引き留め脳に問う
危なげな恋がしたくて猫を飼う
B面で踊り幽体離脱する

稲葉良岩

係累のシュッとふきでるボトル缶
とろとろに暈ける満月ひとつぶん
それゆけ荒野青リンゴ真っぷたつ

岩田多佳子

持て余すスランプ赤い薔薇伐って
水海月くよくよしないが合言葉
脱皮せよ見えない壁があるらしい

海野エリー

燕飛ぶ運河は折れる直角に
恋してる青葉若葉よ胸を張れ
髪洗う大海原に鯨来る

おおさわほてる

まちがって乗ってしまった紙の舟
生真面目に穴はゴホンと咳をする
バラ咲けば庭に渦巻くナルシスト

落合魯忠

かつ丼を追い詰め勝利至上主義
淡水魚のままで都会に来てしまう
つるバラの個人プレーが止まらない

小原由佳

野苺をふふめば戦よみがえる
牡丹散るへびが衣をぬぐように
灯を消すとくくっと笑う造花たち

笠嶋恵美子

ラーメンの鳴門の下のパスワード
姉様は日傘の中で棘を出す
六割で生きております鹿が鳴く

川田由紀子

ダンゴムシになりそう夜更かしをしそう
古ぼけた眼を洗う青紅葉
空を飛ぶ車でちょいとあの世まで

河村啓子

箸置きだなんて宣戦布告だな
始発バス洗い流した酸性雨
ソファーの凹み陽だまりの指定席

菊池 京

この花を雑草などと春の果
さっと口紅合図二度ほどあれば
三夏にはカーブミラーを配置せよ

北川清子

水羊羹 そろそろ本音出るころに
私まで加えられたか頭数
砂漠の真ん中で君を待っている

黒川佳津子

本降りの著作権になれる立夏
すずめのおしゃべり若芽をついばんで
ノールックパスへの日脚がみじかい

河野潤々

総 評 2023年6月 西田雅子

会員作品第23回をお届けします。

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