総評

2023年6月   西田雅子

6月の会員作品をお届けします。
ゆに作品をひらけば、雨の音も心地よく
ゆにタイムのはじまりです。

今月の風

はつなつの森ぱんぱんの寓話かな
阿川マサコ

はつなつには、さわやかで新緑のみずみずしい季節のイメージがある。森の中は、夏に向かって繁茂してゆく草木の力強い生命力にあふれている。様々に織りなす生態系が新たに生まれる季節は神秘的でもあり、そこからは、数多くの寓話も生まれ、まさに森全体がふくらんでゆくような季節。「ぱんぱん」に、新しい始まりや希望、はつなつの、まさにはち切れそうな森の生命力や成長を感じる。

面長な雨 返信の薄化粧
斉尾くにこ

面長な雨とは、しとしと降る長雨だろうか。雨が続くと、それだけで気分が沈みがちに。返信の内容も重たくなりそう。少しでも、気分を上げる、でも上げ過ぎないようにほのかな明るさの内容に薄化粧。ある雨の一日の一コマが詩的な一句に。時間の経過を思わせる一字空けの空間にも、雨が降り続く。

深爪の訳を問われる父の日よ
杉山昌善

父の日は、父への日ごろの感謝を祝う日だが、なんとなく母の日に比べて地味?ここでは、感謝されるどころか、深爪の訳を問われている。そもそも、深爪の理由をわざわざ問うことはなく、深爪とはちょっとしたうしろめたさのある事実を問われているのか、いや問い詰められている状況のような…。父の日って、そういう日だっけ。父の日よ。

だらしない男 気前のいい女
須藤しんのすけ

だらしない男と気前のいい女、という男女のステレオタイプの対比か。が、逆の気前のいい男とだらしない女、のパターンもあるので、ジェンダー論には発展しないもよう。また、だらしないとは、身なりがだらしないとか、お金にだらしないとか、ネガティブなイメージのある一方、人におごったり、困っていたらお金を貸したりと、見方を変えれば気前がいいともいえる。ちょっとした差で、だらしない男は気前のいい男にもなるし、気前のいい女はだらしない女にもなる。

つるバラの個人プレーが止まらない
小原由佳

バラの美しい季節。アーチやフェンスにつるバラが咲いていると思わず立ち止まって、みとれてしまう。つるバラの枝はフェンスやアーチなどに沿って伸びていく。一つ一つの花はというと、咲き競って、まるで個人プレーのよう。なのに、なぜかチーム全体のパフォーマンスとして見ると、気品があって、なんといっても華やか。バラのアーチのある庭に、今もあこがれる。

さすがねと言ったら寂しそう ごめん
藤田めぐみ

ほめたつもりが、あるいは元気づけるつもりの「さすがね」が、寂しそうな顔をされてしまった。そんなつもりはなかったのに、相手の気持ちを傷つけてしまったらしい。一字空けに、その場の気まずい雰囲気と、沈黙の重たい空気が漂っている。そして、そのあとの「ごめん」。「さすがね」の軽さと「ごめん」の重さ。さて、このあとの展開は…。

アマリリス言いたい事は一つだけ
もとこ

アマリリスの花言葉の一つに、「おしゃべり」がある。花が横向きにつき、隣りの花とおしゃべりをしているように見えることに由来するそう。花の色も赤やピンク、白、班入り、また一重咲きや八重咲など種類も豊富でいかにもおしゃべりが好きそうだ。けれど、おしゃべりなアマリリスが言いたいことは、実はたった一つだけ。

三夏にはカーブミラーを配置せよ
北川清子

三夏とは、立夏から立秋の前日までの約3ヶ月間の季節のこと。さわやかな暑さの初夏、梅雨どきの蒸し暑さの仲夏、炎暑の晩夏。それぞれの夏にカーブミラーを設置せよと呼びかけている。カーブの多い道路では事故が起きやすい。さわやかな初夏のコーナーを曲がれば、じきに梅雨時の蒸し暑い仲夏、そして炎暑が続き晩夏へと、熱中症や夏バテ等、命にも関わる危険な時期が続く。暑い夏にもカーブごとに三夏の季節の顔がある。三夏とカーブミラーの取り合わせがなんとも新鮮。さあ、夏がやってくる!