レクイエムアテルイの首撫でてやる
佐藤岳俊
アテルイ(阿弖流為)は、古代東北の人物。
今から約1,200年前、
現在の岩手県奥州市胆沢に暮らしていた蝦夷(えみし)の一人で、
当時の朝廷が、この地と蝦夷の征服を目論んで武力侵攻した際には
族長として勇敢に立ち向かったという。
しかし侵攻は繰り返され、
ついには征夷大将軍・坂上田村麻呂に屈してしまう。
記憶さかのぼれば、
教科書でも大きく扱われていた坂上田村麻呂。
けれど蝦夷側からすれば、アテルイこそ
語り継がれるべき歴史上のヒーローだろう。
作者はこの胆沢に生まれ育ち、今も深く根をおろす。
アテルイの首を撫で、その無念を悼みながら
あらためて平和を守り、希求し続けることを
強く誓っているよう。
本作は先ごろ出版された
佐藤岳俊氏の第三句集『アテルイの首』に収載の一句。
氏は、井上剣花坊にはじまる柳誌「川柳人」の編集発行を受け継ぎ、
反骨精神やヒューマニズムあふれる作品の背後には
遥かなる歴史や胆沢の空と大地が広がる。
大寒にアルキメデスの湯に浸る
恐竜の末裔だったんだねカラス
ウォークマン耳に田植えの風の中
鶴彬よまた戦争がやって来た
老農の背にたんぽぽの落下傘
(令和川柳選書『アテルイの首』 佐藤岳俊/新葉館出版 2023)
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