紙の海紙の鯨はさみしがり
月波与生
折紙かちぎり絵か。
紙の質感が句の詩情にもなっている。
紙の海を泳ぐさみしがりの鯨。
けれど読みようによっては
海そのものもさみしがりなのかなと。
広い海、大きな鯨、そして詠み人が
それぞれのブルーを湛えてたゆたっている。
本作は、月波与生、真島久美子の両氏による
「いちご摘み川柳」を書籍化した
合同句集『いちご畑とペニー・レイン』の一句。
ちなみに「いちご摘み川柳」とは、
その名のとおり
前の人の句から一語(いちご)をとって
自分の句を作り、つなげていくのを楽しむもので
掲句の前後もご紹介すると、
折り紙をほどくとただの女です 久美子
紙の海紙の鯨はさみしがり 与生
白鯨の尾をぶら下げて無風帯 久美子
別のページでは、たとえば
偉人伝下巻はいつも貸出中 与生
挑発に乗ってくれない水中花 久美子
発酵はしない椿と暮らしてる 与生
ということで、
二人が相手のどんな一語や一字を摘んで、展開させていくか。
そんな言葉のセッションもスリリングながら
読み進めるほどに、
両氏の個性が浮かびあがってくるのも興味深い。
「自分の句に飽き飽きしたとき、
どうしても句ができないとき、
私はこの「いちご畑」を耕したいと思います。」
とは、真島久美子さんのあとがきの一節。
いろんな「あ!」や「お!」に満ちたユニークな句集、
発行日は来たる7月1日ですが
すでにAmazonでもゲットできます。
(満天の星現代川柳叢書9
『いちご畑とペニー・レイン』
月波与生 真島久美子/満天の星 2023年)
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