2024年5月

一途さを鎖骨に流し木のポーズ
桜餅は完璧アドリブは要らぬ
サングラス外せば桜生き生きと

海野エリー

芥川太宰も頭ブロッコリー
胸元のついつい見ちゃうブロッコリー
Wi-Fiのマークは実はブロッコリー

おおさわほてる

天井に濃く張り付いている秩序
営業10課ちょっとほぐしてみることに
突風になりきり去ってしまうとは

小原由佳

背表紙の金字へ背筋たてなおす
言の葉を浮かべて流れゆく小川
一点の曇りもなくて壷はたいくつ

笠嶋恵美子

仏頂面をする新しいホクロ
肩甲骨あたりで渋滞する本音
ため息はもう閉じて暦は還る

桂 晶月

藤の花私の欲の深さまで
バッテリー切れて吉本新喜劇
お稽古をサボって雲に乗っている

川田由紀子 

桜咲く一つの祈りに会うように
遅刻して早退をする月曜日
あくびのあからあにの本棚くずれだす

河村啓子

茶柱に見えなくもない眉間ジワ
厳かにテンプレートの血判状
労使協定 五月始まりの手帳

菊池 京

立夏にはバラ色描く男来る
泣く女を呼べこの草原に
悪口を聞いたらどうぞピカソでも

北川清子

企みが勃発しそう葱畑
ディジュリドゥ魔女は箒をしまいこむ
乾杯の真ん中にいてなお独り

黒川佳津子

花曇りバターナイフは踊れない
まぼろしに会える回転扉押す
聖五月うつつくつろぐ白孔雀

黒田弥生

しがらみを断ってうふふと舞うさくら
副題は腰に栓抜きぶら下げて
拍節のケーキ屋横にチョコザップ

河野潤々

深呼吸吸いきって春真っ盛り
ごきげんよう晴雨兼用ニュアンスで
髪色はみどり若草山は春

斉尾くにこ

祗園精舎に元カレおわす通り雨
サクマドロップスいちゃいちゃしないようにふる
はつなつのバス停にいたラムネ味

澤野優美子

口座から引かれる赤いジャケット
辛いとも渋いともなく欠ける月
大あくびしている春の河馬の味

重森恒雄

ぬる燗にはまっていますぬるい俺
めんどうな付き合いは嫌 沼に棲む
君を抱く私の罪は百叩き

杉山昌善

葉桜のちょっととぼけた置き手紙
晴れてたら見える地球のいい所
五日目の北緯はちょっと疲れます

須藤しんのすけ

ぼくたちがR指定であった時
結び目をほどいてあげる春だから
本棚の整理あのひとあのこと

浪越靖政

ひんやりと肘鉄砲の音を聴く
夕焼けと放置自転車密談中
あいまいな季節生まれてくる岸辺

西田雅子

横隔膜が痒いらしいよ、春風
やわすぎるからエッフェル塔は返します
春@食傷の蛇は土星の輪になった

西山奈津美

婉曲に告げる一筆箋の藤
絞りだし袋の口金の残雨
そのうちにキャベツみたいに笑えるさ

芳賀博子

撫でてくる手が焼き付ける従順さ
じっくりと焼けば君も甘い脂
人妻をやめてネモフィラより青く

橋元デジタル

息継ぎを覚えたばかり花の街
ふんわりと心休めの花曇り
無意識に闘っている爪割れる

林 操

シンクタンクは肥溜めにもならず
引退の花道失言を敷き詰める
自分で自分がわからなくなる詐称

飛伝応

家族終了宣言をする衣替え
常識を少し外れた場所に海
優しさで包む善意とお節介

平尾正人

発車します天国行きに乗りますか?
ヘアカット鏡の国をノックする
歩け歩けオールドタウン山手台

弘津秋の子

復讐ってほどでも せいぜい水鉄砲
帰還して赤子の肉のやわらかい
ふわりと行こう未来はへそを曲げてない

藤田めぐみ

鉄塔のように極める瘦せ我慢
卵かけご飯こっちの店にする
花吹雪DNAに点くあかり

藤山竜骨

歌謡曲心の叫び昭和人
貯金と妻励めどもザルの僕
口やかましい亡き母の声次女が居た

堀本のりひろ

黒船になる放課後のヴァイオリン
青い鳥まだ追っている追われている
古本屋までの小さな旅でした

真島久美子

被災地に今年の春のホタルイカ
ココ壱のメニュー決まればもう大人
びっしりと星が騒いでいる砂漠

峯島 妙

心の機微わからないのねマカロンね
好きなもの数える雨の公園で
ボタン屋でみつけた海からの手紙

宮井いずみ 

夕桜まだ半島は揺れている 
黒猫のピンクの手形で世界一周
ラッコにはラッコの海の貝殻を 

村田もとこ

「もういいよ」がかえってこないえいえんに
そんなわけないけど会いに来るみたい
雨粒にノックされてるはじめます

本海万里絵

友を待つミモザの花束二つ買う
肌掛けのブラックホール春の罠
箱入りのスカーフ風を知らぬまま

森平洋子

玄関に心の裂けたチューリップ
スヌーピー今日を何とかして呉れる
哀しみが続く 聖域は地雷源 

森 廣子

濁音を外せばやさしい雨になる
タンポポの綿毛は軽い人見知り
春愁のアルバム川は蛇行して

山崎夫美子

大雨の降った市バスの停留所
ヤーさんと知らず注意をしてしまう
友が言うきっとあなたは刺されます

吉田利秋

木の芽味噌 漢方アロマの出番
ナチュラルコーヒー 恙なく一周忌
過呼吸になってきた花瓶の桜

四ツ屋いずみ

半生は私と犬のドラマです
平穏なワンパターンのこの暮らし
戦争は命のかたち変えている

渡辺かおる

でくでくと倒れたままの杭ひとつ
立ち止まる銀河の見える崖づたい
背景に溶け背景に守られる

吾亦紅

クローンかソメイヨシノの薄っぺら
山桜自照漲るフィナーレよ
天空へ広ごる五色御手の糸

阿川マサコ

さやさやと昨日を捨ててゆくさくら
私の中にごめんなさいが三つある
私からわたしへ追伸はつづく

浅井ゆず

異動とは岐路ではありぬ必然さ
異動辞令オールリセットオールオーケー
異動先まずは和菓子屋街中華

朝倉晴美

落下したマウス弾んで闇に消え
今朝方はトンビがいたと鳴くカラス
塗り残しあればヒヨコを放せるね

石野りこ

甘すぎる羊羹 サービス残業
理想的家族にもあるわだかまり
雲ひとつない空に浮く青りんご

伊藤聖子

戦争と命を数字だけで見る
スマホから命の音が聞こえない
画面から煙以外は伝わるが

伊藤良彦

地球変ヒト科カノンもガガゲゲゴ
桜まじオープンカフェはブラックで
スイッチをバナナジュースでオンにする

稲葉良岩

シャッフルシャッフル水になる予定表
水遊びダウンロードの中庭で
ペーパームーンふと昇る文具店

岩田多佳子

会員作品を読む 2024年5月 西田雅子

第34回会員作品から

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