蚊や蠅の命のことを知らぬまま
人類は銀河の隅で生きている
梅の木が見つめる空に戦闘機
伊藤良彦
退屈な年輪刻む凪の日々
揺れ惑う祭りの後の影法師
後ろ指指してる人のその後ろ
稲葉良岩
渦潮のひとつふたつを腕の中
つま先で水平線をもみくちゃに
寒かろう素顔に着せる服がない
岩田多佳子
愛しさの最後の籠にいた子猫
大粒の種吐き出せるのがおんな
つっこみが足らずボサノバひとしきり
海野エリー
僕たちは海月の身体愛し合う
レモンティータコの純情人知れず
青バナナ直立不動なんて嫌
おおさわほてる
反省文梅干し1つ食べながら
長梅雨にぐるぐる回す膝頭
前屈のようなお辞儀で責められる
小原由香
雨垂れに前頭葉を穿たれる
意味のない言葉ばかりが溜まる部屋
仮縫いのまんまで舟を待っている
笠嶋恵美子
鈍角の中でほどいてゆくロープ
滑らかな時へと赦すことふたつ
天秤の左を予約しています
桂 晶月
空蝉が大きな声で鳴き始め
蚯蚓腫れ何処かで誰か傷つけて
手の中の水を握って逃げなさい
川田由紀子
繋ぎ目にたっぷりと塗る柚胡椒
空蝉のあわれこの世にしがみつく
見積もりに割り込んでくるアーテイチョーク
河村啓子
ためらいのフィンガーボールにさざ波
追いかけて待って忘れて整って
夏送りまだ火照ってる燈曾と
菊池 京
八月や釣って釣られてツルツラン
人も樹も大きく揺れる夏頂点
戦いは終わるそこから始まれり
北川清子
怒ったりしないと誓うハリセンボン
水曜日そろそろ生えてくる鱗
人間って何だろウーパルーパの目
黒川佳津子
捥ぎたての夏の屹立ショーケース
キューカンバーサンドみずみず午後の椅子
茄子のとげちぎる恋占いにして
黒田弥生
プラセボの給湯室を飛び立てり
お控えなすってお隣に王将
貨物用トラックの髭が濃すぎる
河野潤々
会釈する新色の夏はじけさせ
相槌のくぐもりジャンプする魚
屈託と乳白色のアナベルと
斉尾くにこ
ぬるめとかゆるめとか忌引三日目
摩周湖の切り売り管理人強気
目を閉じて呪文のように「う・え・い・あ・お」
澤野優美子
睡眠時無呼吸の傘が裏向く
赤染衛門のサロンの雨の音
誰か来る当てもなく跳び箱を跳ぶ
重森恒雄
輪になったことを後悔する輪ゴム
疑いが晴れて嫁入りする狐
振り返る人生 循環小数
杉山昌善
サイダーをそそぐグラスに銀河を宿す
アルタイルベガトデネブトスガシカオ
話すのはきれいな月のことばかり
須藤しんのすけ
そもそも海に行く用なんてないし
越すのかい蟻は五日の雨を知る
帰家穏座明かりをつけて阿吽の茶
田尾八女
能動となるまでの時間の濃度
過去形が滅んだあとの盆踊り
白昼に銃殺された受動態
たかすかまさゆき
始まりは乱数表の読み違い
あれから三年もう熟成をしてる頃
QRコードの先のセレモニー
浪越靖政
2ページ先の最寄りの海で待ってます
待ち針で留めるそらいろの空
缶切りで開ける夜空のパッケージ
西田雅子
反故にしましたあまりに夕焼けで
5ccの悪は持ってる朝の風
蛇ならば毒吐け昭子なら笑う
西山奈津実
桃ゼリーまた証言をひるがえす
旧地図を走り続けている市電
共倒れからの豆朝顔からの
芳賀博子
盆近し禍根を残す蓮の花
ライバルが帰っていいよと誘い水
地下鉄の終点までを異邦人
林 操
マスコミがまるっと造るサイコパス
片付かないのは机ではなく 脳
おそれいりました七月の酷暑
飛伝応
叩いても叩かなくても出る埃
知り合いの知り合い結局は他人
引き出しの中から零れだす記憶
平尾正人
一滴の汗も無し文月の蜻蛉
見えにくい聞こえにくいぞトマトだぞ
欠席届私の敵は夏マスク
弘津秋の子
白線の外に無罪の顔で立つ
素潜りで軽い別れを繰り返す
鮫である証拠を隠し通す日々
藤田めぐみ
瞑想の日という水曜のカフェ
返り咲くつもりのくしゃくしゃの月
遺言にタンス預金を抜いている
藤山竜骨
ロングヘアーに絡め取られて籠の鳥
定年退職したら世間にはじかれた
君の手のあったかさにはほっとする
堀本のりひろ
消えたのか市外局番からの風
膝曲げて声を拾っているところ
時間って無情渇いてゆく言葉
真島久美子
八月の同窓会のなし崩し
物故者が出口あたりに並んでる
ケンちゃんは今年も来ないクラス会
峯島 妙
プッチンプリン直前で日和る癖
半端なく抜けるネコの毛土砂崩れ
アーモンド効果に期待して あばよ
宮井いずみ
風鈴の舌ぬきとられ釣忍
ふりむけば三十路のわたし「ドクトルジバゴ」
ゆうちゅうぶ地球儀転がす視野の旅
村田もとこ
星々がふるえるさがさないでって
今日好きなことして過ごせますように
吹き飛ばされて残ったものでやっていく
本海万里絵
付箋メモ三つはがして氷菓子
太陽を内包してるかたえくぼ
ふいをつく風鈴 夏が好きになる
森平洋子
秋葡萄 夏は西瓜がダメと医者
危機感を察知していた足の裏
思い出に時に厳しく責められる
森 廣子
かげろうの門へ人力車が消える
眠れない夜を跨いで兵馬俑
落色の仁王の口の渇ききる
山崎夫美子
同窓会休むと死んだことになる
六十歳の教え子たちの背中押す
本日は平和行進四キロだ
吉田利秋
これくらい塩レモンふり幕引きに
備考欄だけ完熟梅で埋める
帆船たゆたうセロトニンの河口
四ツ屋いずみ
電動轆轤骨壺回る わたくしの
貸金庫代わりに閉める冷蔵庫
枯渇したすみずみまでも紫蘇ジュース
渡辺かおる
わけあって夢の扉を塗りつぶす
影伸ばし銀河の端に触れた指
今日もまた拝み倒しの朝奔る
吾亦紅
エクレアとセブンスターと茄子の馬
摂氏40度ディアボロ風になすがまま
みんみんの中にみんみん果ててゆく
阿川マサコ
濡れている老母も私も病舎ごと
雨音が残る無声のワンシーン
7月の木洩れ日ウツを抜けてゆく
浅井ゆず
妻いつもカタカナ表記新姓を
帰省して娘二十歳で実印の話
相続のこと焼きナスを裂く時
朝倉晴美
いつもとは違う痛みは放置する
間接照明 かける費用は惜しまない
月なき夜 内部クリーン運転音
石野りこ
仮縫いのままで売られるぬいぐるみ
恋なんてしない ワサビを響かせて
人生のピーク ガリガリ君「当たり」
伊藤聖子