おとし穴 終日風が吹いている
泉 淳夫
はっとして、すっと背筋が寒くなる。
この句自体が、落とし穴のごとくあらわれ、
油断を警告するようであり、
ただ薄い笑いを浮かべているだけのようでもある。
さて主人公は、穴を掘った方か、落ちた方か、
はたまたまったくの第三者か。
そのいずれもに、自身の苦い記憶やら
さまざまな時事が重なって、
読むほどに生々しさを帯びてくる。
近づいて、穴をのぞきこんでみたくも
一字空けのぽっかりもどれだけ深いことやら。
作者は、泉 淳夫(1908-1988)。
博多番傘川柳会に入会のち「ふあうすと」同人。
1965年に現代川柳・藍グループを結成。
76年、「藍」(季刊)を創刊。
霧の深さに沈みきれずに鴉啼く
菜の花の天にいちにち父の声
数え唄川に確かな杭の数
(句集『風話』 泉 淳夫/藍グループ 1972)
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