今日の一句 #496

そうじ機の音がしてくる森の中  坂東乃理子


森で音がして
「あ、そうじ機」
と、すかさず掃除機を思い浮かべる感覚が
無邪気でおもしろい。


実際は山仕事の機械音?
あるいは、近くの山小屋でまさしく
掃除機をかけている音だったりして。


そう、きっとほんとに掃除機だ。
ただし、人間には扱えない特別仕様。


森の奥まで侵入しようとする邪気を吸い込み
森を常にクリーンに神聖に保つための森専用。
使っているのは、
精霊たちのお掃除当番、とか?


ウィー、ウィー、ウィーン。

句に耳を澄ますと、不意に懐かしい。
そういえば、私もかつて

森で耳にしたような。
それはもう、遠くはるかに幼い頃に。

とすれば、この「そうじ機の音」も
大人になってしまうと

聞こえなくなってしまうのだろうか。
かのモスキート音みたいに。



(坂東乃理子 川柳集『人魚の絵』/私家版)

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