そうじ機の音がしてくる森の中 坂東乃理子
森で音がして
「あ、そうじ機」
と、すかさず掃除機を思い浮かべる感覚が
無邪気でおもしろい。
実際は山仕事の機械音?
あるいは、近くの山小屋でまさしく
掃除機をかけている音だったりして。
そう、きっとほんとに掃除機だ。
ただし、人間には扱えない特別仕様。
森の奥まで侵入しようとする邪気を吸い込み
森を常にクリーンに神聖に保つための森専用。
使っているのは、
精霊たちのお掃除当番、とか?
ウィー、ウィー、ウィーン。
句に耳を澄ますと、不意に懐かしい。
そういえば、私もかつて
森で耳にしたような。
それはもう、遠くはるかに幼い頃に。
とすれば、この「そうじ機の音」も
大人になってしまうと
聞こえなくなってしまうのだろうか。
かのモスキート音みたいに。
(坂東乃理子 川柳集『人魚の絵』/私家版)
過去ログはこちらから▶