ケンタッキーフライドチキン 坂だなあ
都築裕孝
長い商品名と吐息みたいなつぶやき。
ただそれだけで景を立ち上がらせ、
物語にするのも、川柳という短詩の魅力。
「坂だなあ」。
なかなかにキツそうな上り坂の先に
待っているのは誰だろう。
恋人? 家族? 友だち?
あるいは一人居への帰宅かもしれないし
また、主人公は歩いているのか、
もしかしたら自転車かも。
と、シチュエーションによって
物語の展開も変わってゆくけれど
ケンタッキーフライドチキンだけは
ゆるがない存在感。
みんな大好きなファストフードの包みからは
いささかのペーソスをまじえながら
いつものあのいい匂いがする。
さあ、冷めないうちに上りきらなきゃ。
(杜人同人合同句集『杜Ⅱ』/川柳杜人社 2021年)
過去ログはこちらから▶