今日の一句 #724

手術痕ばら色あとはみんな噓
平野ふさ子


上五から一転二転、思いがけないところへ着地する。
リズムが明るく軽やかな分、
すぱっと体言止めの衝撃の強さ。


まだひりひりと痛む手術痕は
なまなましい「ばら色」で、
それだけが真実。
あとはみんな噓、の
「みんな」は世界のあらゆるであり、
その中には、読み手である私も含まれていて
安易に近づき寄り添うことを
拒ばれている気もする。
と同時に、
本作ににじむ痛切な人恋しさ、
なんともいえない人懐こさが沁み入り
やっぱり平野ふさ子さんの作品、いいなあと思う。


本作は2000年に、川柳大学創刊5周年記念として発行された
アンソロジー『川柳の森ー現代の秀句』より引く。
平野さんは同世代で、同じく元「川柳大学」メンバー。
同誌が終刊後は、それぞれの場で川柳を書きつつ、
平野さんの鉛筆から(とは限らないけれど)

たゆまず魅力的な川柳が生まれ続けていることを
心ひそかに頼もしく思う一人だ。

以下も本書に収録の作品。

 約束はどこかへ行った茄子実る
 九月八日までは二人がいたノート
 猫好きは心外わたし獣好き
 休憩のピエロのあとをついて行く
 黒髪を風に広げる逢う朝は


(アンソロジー『川柳の森ー現代の秀句』
時実新子監修 2000年 大巧社)

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