2025年11月

話しかけたらどなたですかと呆けた妻
三叉路だ我が家はどっち下駄投げよ
ジャングルジムで夕陽沈むのをじっと待つ

堀本のりひろ

現代のおとぎ話の舌の先
真夜中を語りつくした糸電話
無茶ぶりを頬張るウチのアンパンマン

峯島 妙

トリアージの日々に疲れた消防車
普通の夫婦ふつうの午後のお茶
遺された猫とかさぶた見せあって

宮井いずみ

まだきれいだからひかりの破片集めてる
天地創造まずお米をとぎます
教えるね5センチ幅の夜空とか

本海万里絵

誤字脱字 わた雲一つ乗り過ごす
水っぽいカレーみたいな返事して
ジャズ多め蒼い月夜のプレイリスト

森平洋子

琵琶湖の水はノーベル賞に効くらしい
こっそりと爪を磨いて居た野心
一人観る満月が手を振っていた

森 廣子

無人販売すすきの束が売れている
引き潮に託す記憶の一部分   
思慮深くありたい今朝のカンパーニュ 

山崎夫美子

シルバーの女性の棋士を指導する
要支援の認定調査受けました
期日前投票済ませ自慢する

吉田利秋

邂逅のふしぶし知らなかった傷
交差点過ぎればわたくしは右へ
イマジン流れ目をやると時雨月

四ツ屋いずみ

老老介護母と私の加齢臭
いつからかアジトのように暮らす家
保存料取り過ぎわたし腐らない

渡辺かおる

逆光の闇にシンクロする答え
濃密に浮かぶ影絵となるひとり
夜露からいただく今日のありがとう

吾亦紅

つまらんと返すこだまをたしなめる
かったるい秋にカボスを絞りきる
秋の空ときどきパラパラと希望

浅井ゆず

爽やか!君も俺も猫も五十路
柿照葉娘は情熱家であるらしい
愛車はジャガー冥土の土産だから伯母

朝倉晴美

お湯だけできれいになった誕生日
長雨に星の匂いの混じる夜
満月は巧みに息を引きとった

石野りこ

一滴の水も僕はつくれない
楽になるススキのように揺れてから
正直に生きる理性が欠けるまで

伊藤良彦

病室の柱に貼れり未来絵図
豊の秋Wi-Fi探すクロアゲハ
固まった話途中で柿が泣く

稲葉良岩

快速をひとつ逃した目をしてる
剥がれない空のいちまいとんがって
義妹くる塩のかげんは絶妙に

岩田多佳子

淡々とクレープ焼いて振り向かず
猫の手が泣いた時間をなめらかに
エキストラのままで花野は広すぎる

海野エリー

毛羽立っていますね秋の満月が
名月や骨の髄までマンモスだ
明け方のこむら返りは震度三

大竹明日香

一枚剥がすとても努力家だった痕
全身がしくしく泣いている痛み
ヒュルヒュルル誤読の果てに沖に出る

小原由佳

重い手紙だ郵便受けが濡れている
蜘蛛はもう天へ向かって糸を吐く
どの杭も冬に向かって立ち直る

笠嶋恵美子

懺悔を転がす満月の外周
助手席に残したヒトトキの尾ひれ
幽体離脱という手段を残す

桂 晶月

とりどりの薬を飲んで山河あり
引き金を何度も引いて共白髪
雲流れ河馬がくしゅんと嚏する

川田由紀子

不揃いを詫びる指先震えてる
そよりともせず鈴虫の舌打ち
曇天を引っ張り出したチェロの弓

河村啓子

娘って女でしたねああしんど
川を見てたら涙が出てきたもうあかんね
病室の窓トウモロコシは届くかな

寒雷

蛍光ペン三等星の囁きに
水族館の匂いの君が好きだった
笑ってよ僕のゼンマイ壊れても

菊池 京

うつですねって言ってもらってホッとする
親父が来たらうつうつするの忘れてた
飛んでったよ風と共にうつが

北川清子

飲み込んだ言葉逆流して火星
吟醸酒 椅子引き寄せてする話
限界集落アサギマダラの宿

黒川佳津子

パン窯のプロミネンス的火の粒子
濡れ案山子と逢魔が時に入れ代わる
枯野発未明無人のバスに乗る

黒田弥生

は行からだ行へ肌のポテンシャル
秋来ぬと背中彩る肉の文字
スパッツがレギンスになる日の長さ

河野潤々

カシミヤの小さな笑い吹き抜ける
ヒーローと出会う無駄話良品
とろけてるチーズが角を持っていた

斉尾くにこ

膵臓とキリマンジャロに行ってくる
血をば吐く立待月を寝て待って
出棺に間に合うブルーインパルス

重森恒雄

娘の帰還 父のひまわり種シャワー  
昼の月 私はいつも居留守です
デンデケデケデ我が青春と君の音

杉山昌善

淡い影でいよう背高泡立草
いきています河原撫子なでながら
敗荷やこれはだれの感情だろう

たかすかまさゆき

二つ目のつむじの何としたたかな
守護神も居眠りしてる夏疲れ
都市伝説一つ残して夏終わる

浪越靖政

コスモスは風のご機嫌うかがって
月までの夜汽車に乗ったご縁です
縄跳びの一人は秋に着地する

西田雅子

別便で嵐送るわお姉さま
休日なのでこのサヨナラも休ませる
かすてぃら底のざらめは性悪説

西山奈津実

神さまのあくびから生まれた子犬
アパートの名前はおまじないになる
死なないで チョコチップクッキーあげる

温水ふみ

黄菊にもあらあら手厳しい姉よ
蜜りんご自己催眠を繰り返す
秋冷のケーブルカーが見せる果て

芳賀博子

ヨコハマの風に誘われ友が着く
眼下には彷徨い人がウロウロと
来し方を薔薇に囲まれ懺悔する

林 操

パソコンがサクサクお遊びも進む
席譲る構えがんばります偽善
エンディングノートに暗号らしきパスワード

飛伝応

本当にきれいなきれいごとだらけ
降り続いています止む気のない雨が
どこだったのだろう人生の山場

平尾正人

赤蜻蛉「お疲れさま」と擦れ違う
テキパキとこなせなくなる締切日
痣だらけかゆいかゆいと生きており

弘津秋の子

石鹸の泡は犠牲的精神
黄昏が混じって重い息を吐く
非課税の人が出てくるパチンコ屋

藤山竜骨

会員作品を読む 2025年11月 山崎夫美子

会員作品第51回をお届けします。

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