2021年12月

縄文の母に叱られてる日本
冬どなり猫の吐息の子守唄
最後までしぼりきったら主婦の勝ち

森平洋子

神宿る森かも風が追ってくる
木簡をなぞる答えのない時空
ふたたびの秘仏へ深い呼吸音

山崎夫美子

反抗期の孫が突然来なくなる
断捨離の極めは離婚だと思う
ギョギョギョギョギョ釣られた鯛の叫び声

吉田利秋

七十年 路肩も亡父も未然形
大潮に運ばれていく迷い月
ミジンコになって本日痛みなし

吾亦紅

新しいすすきの中のグルグル部
魂が新鮮になるのぞき口
秋の体冬の体と着古して

阿川マサコ

異論から異論へバッタ飛び交って
銀杏は臭い!だけども美味いんだ
秋の七草七つ言えたら許そうか

浅井ゆず

email我はアマゾン君は月
同僚はグァテマラ配置月は満月
夢は母祖母叔母のないしょごと

朝倉晴美

振り向かないで夜はプーさん抱きしめる
無欲ですと大きなブーツ樅の木に
縦糸と横糸アンバランスな冬

海野エリー

集まった俺たちゃギャングセロリ団
気持ちなら石蕗の花です無口です
みかんからこぼれてきます父と母

おおさわほてる

おしゃべりは続く夕陽の裏側へ
タイマーが切れた人から順番に
サイレントころころ丸め冬の鈴

岡谷 樹

取れかけのボタン演歌がぶら下がる
レガシーもエレジーも父の背中に
廃線バス群青色でいっぱいに

小原由佳

水茎の跡を辿ってゆく嵯峨野
墓碑銘をなぞれば風が渦を巻く
終演の合図だったか一筋の煙

笠嶋恵美子

先っぽを繕い鎌の月昇る
帝国の路地に洗濯物が揺れ
立ち上がる椅子は大きく息を吐き

川田由紀子

醒めた目でやって来たのが未来です
劇場も列車も同じ蝶が舞う
せっかくの老後に届くサーフボード

河村啓子

半熟が許されるのは玉子だけ
薬包紙嘘つき役を引き受けて
ポケットの紙屑 拳から挽歌

菊池 京

たいていのことに根拠がない私
熱風が時々吹いている心
日記帳閉じて昼餉の菜を買いに

黒川佳津子

首以上落葉松降らん以下余白
鳩が鳴く羽を休める口実に
ドウランの乗ってくれないCゾーン

河野潤々

頬杖の角度を真似て人見知り
夜空にも雲はありますセミコロン
胸のドア開けてシャワーをしています

斉尾くにこ

なにわ男子のスキップ真似る夜毎の夜
恋慕的体質そらいろの系譜
空をみて蜜柑になってグッドラック

澤野優美子

ゆるゆると流れる川に秋の淵
紅葉が舞えば切れている琴の糸
水鳥の光の中に潜る音

重森恒雄

成層圏 僕を睨んでいる蜻蛉
遠雷やもっと淋しくしてあげる
ゴミ拾う男たまってしまったわ

芝岡かんえもん

去ってゆく君の靴から秋の音 
黙秘する玄関にある女傘
赤チンを塗った所が反抗期

昌善

足がもたないサザエさん的茶の間
悪い時着信音のひと呼吸
未知数をいっぱい空けてペンひとつ

ぽっと灯り水に挿す灯り
一行詩・未来のわたし料理する
ツワブキを夜に浸すとイヤリング

千春

数式は太古の森のスケルトン
瑠璃色が決まらない寝不足の海
さよならのかたちに星座組み直す

西田雅子

冬空を旅するように磨く窓
ともかくもいのちいのちと昆布うどん
パーカーのフード引っかぶれば汽笛

芳賀博子

紅葉狩り予定にはない風邪をひく
フレームの中にちんまりVサイン
マスクでも愛想笑いはバレてます

林 操

気がつけば終の棲家の多層階
退任の挨拶雄弁だと思う
バラマキを子供が拾う子が背負う 

飛伝応

倍速でずれる意識も関係も
介護系だろうか2時のコンビニで
処世術の一つに吐露し合う不幸

平尾正人

まじめです変な人ですわたしです
本物の夫婦つんつん横を向く
車窓から虹を見つける西宮

弘津秋の子

ひとでなしろくでなしから浪花節
すこんすこん「愛」の振り付けが間抜け
バター煎餅すれっからしの純情です

藤田めぐみ

図書館へやがて流れていく孤舟
生涯現役サプリメントに埋もれる
スマホ買え買えと3Gの携帯

藤山竜骨

独白は果てなくつづく朱の鳥居
イチョウ黄葉悔しくて引く二重線
恋とか愛とか甘すぎるチョコレート

宮井いずみ

手が届く範囲の世界きらめかす
真夜中を煮詰めてつくるあずき餡
こんにちは黄金ですよ秋ですよ

本海万里絵

総 評 2021年12月 芳賀博子

会員作品第5回をお届けします。

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