総評

2021年12月   芳賀博子

会員作品第5回をお届けします。ぐっと冷え込み、いよいよ慌ただしくなる日々。ホットなゆに作品でホットなひとときをどうぞ。

 

今月の風

新しいすすきの中のグルグル部
阿川マサコ

グルグル部ってどのあたり? で、ふとよぎったのが、今年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一の口癖。劇中の栄一はワクワクドキドキすると、心臓のあたりを摑んで「グルグルする!」と目を輝かせる。もしや新しいすすきも、何かにすっごくワクワクしているのかも。

同僚はグァテマラ配置月は満月
朝倉晴美

基本、句は作者のプロフィールをできるだけ排して読んでいる。が、例外もある。作者は現在、ブラジルに赴任中。同じく日本から遥かに遠い異郷で汗する同僚は、国は違っていても、タフな毎日をともに闘う同志であるよう。本作、「同僚はグァテマラ配置」と堅い措辞から一転しての「月は満月」の高ぶり
。字余りから滾々とあふれる異国の月光は、望郷の念も湛えて、エキゾチックにまばゆい。

無欲ですと大きなブーツ樅の木に
海野エリー

わざわざ「無欲です」と宣言するのが可笑しい。サンタクロースとの駆け引きを楽しんでいるのかしらん。ブランドバッグやハイジュエリーは要らないけど、愛はたっぷりお与えください。なんていうこちらの勝手な想像は通俗過ぎるけれど、クリスマスはロマンチックコメディの名画をいくつも誕生させてきた。

頬杖の角度を真似て人見知り
斉尾くにこ

誰の真似とは書かれていないけれど、意中の人とか、憧れのアイドルとか。それでなくとも人見知りさんは、人間ウォッチングが、ひそかに得意そう。単に頬杖にとどまらず、頬杖のちょっとした角度まで真似ながら、同じように物思いし、近づこうとする心理がキュート。

さよならのかたちに星座組み直す
西田雅子

「さよならのかたち」のポップス調から、ふっと飛躍して「星座組み直す」のトゲ。その変化もキラリと面白い。さて、古来より人は星を読んできた。星座を組み直すというのだから、二人の行く末は主人公の掌中にあり。けれど、ある種禁断の、ともいうべき行為は、ひょっとしたら世界の運命をも変えてしまうやも? うわ。やにわに胸がざわざわしてきた。


気持ちなら石蕗の花です無口です
おおさわほてる

秋から初冬にかけて、鮮やかに黄色い花を咲かせる石蕗。江戸の俳諧論書にも季語として登場するなど、古くから日本の冬の花として親しまれてきた。自生力が強く石や崖のほとりにも咲く。という石蕗に気持ちを託して、です、です、のたたみかけるような言い切り。確かに寡黙で一瞬近寄りがたくも、背後に強い人恋しさが感じられ、引き寄せられる句。

ツワブキを夜に浸すとイヤリング
千春

こちらはカタカナ表記でツワブキ。同じ石蕗でも繊細な印象に変わり、なぜか「ツワブキ」と声に出してつぶやきたくなった。さて石蕗は鑑賞用だけでなく、若い葉柄を食する地方もあるそう。でもイヤリングにもなるとは初めて知った。千春さんだけの魔法? たっぷりの夜に惜しみなく浸せば、わが耳を飾ることもできようか。

 

縄文の母に叱られてる日本
森平洋子

喝!活!カーツ!!で目が覚めた。縄文の母といえば、あの土偶の数々を思い出す。実際に目にすると、ほんと、時空を超えてほとばしる生命エネルギーのなんと豊かなことか。誰より厳しくあたたかく、豪快に𠮟りとばす声は、もはや海の向こうへも響き渡っているんじゃないだろうか。つまらんことで諍うな。みんな仲良く、平和が一番!て。