潔白の証しにくるぶしを見せる
よく喋るケトルとたっぷりの陽射し
顔上げているか なまはげやって来る
宮井いずみ
あの世という設定があるありがたみ
今ごろは歩けてるよね川向う
生きている前提だった処方薬
本海万里絵
甘すぎる初夢漬けを頬張って
高層の雪はさみしい音がする
恋愛も唐揚げもプラントベース
森平洋子
野に雪の雑兵いつか攻めてくる
一刀彫の鹿一族のあさき夢
４Ｂで描く神将はサイボーグ
山崎夫美子
震災後ビルのあふれる新長田
沖縄のコロナに激怒する真冬
米軍の基地のゲートを封鎖する
吉田利秋
朱に藍を混ぜたらまるでわたしたち
きのうより鼓動が速いジャニュアリー
ありがとうを運んでおくれ虎落笛
四ツ屋いずみ
雪に佇つバラの実なおも朱の孤影
目を閉じて大きなマルの中の果て
心地良い風に向かってゆくシッポ
吾亦紅
年明けの水の声するぴえん
肉食のあと暗澹とする味蕾
転んだらつかむ四十年前の雪
阿川マサコ
豆粒になった私の中の鬼
あの世この世を繋ぎしらしらしらと雪
いきしちにの道でうくすつぬる心
浅井ゆず
三日月は寝ている我は揺蕩う
揺れる三日月ポルトガル語だけの夜
三日月と娘と泳ぐ天皇誕生日
朝倉晴美
引っぱると目を覚まします二月
あめつちの深夜まみれを着てしまう
昼のそのハシビロコウの嘘話
岩田多佳子
大根の味は染みたか王将戦
しらを切る嘘という字は忘れたわ
決めかねる恋よケーキの冬苺
海野エリー
雪催いシュプレヒコールとつぶやいて
真ん中に買い物袋福寿草
吾が笹が転じ公魚なったという
おおさわほてる
明けましてタオル一枚おめでとう
山の湯に手足二組解き放つ
味噌で煮る野山かけてた蹄音
岡谷 樹
有識者会議伐採音がする
置き場所が決まり影の位置も決まる
紙コップ何の乾杯だったろう
小原由佳
お多福の面はにこやか聞き上手
灯を消せば紙人形が笑い出す
乳色の硝子に月がとけてゆく
笠嶋恵美子
SASUKE絶叫黒豆が煮えている
冬籠もり竹輪なんぞを吹いてみる
私がすっぽり入る福袋
川田由紀子
らしい顔してみろ新年の空よ
ケン玉の糸の長さにある憂い
わたくしを驚かすため月は出る
河村啓子
天気図が正確すぎて泣けません
湿気てくるカウントダウン聞き漏らし
会者定離肩に積もらす雪の音
菊池 京
誰からも着信もなし鏡見る
編んでたらチョウゲンボウもクロ坊も
春炬燵で待ってるシェトランドヤーン嵐色
北川清子
初春の一歩に草の柔らかさ
すごろくの「三つ戻る」のような日々
そっと巻くあなたが破れないように
黒川佳津子
よろしくをレンチンし春の口紅
お年玉ポチっまだビットコインです
橈骨休息臀部力不足
河野潤々
わからなさ抱えて背伸びの運動
自販機に「愛」と「自由」と「才能」と
おちつけと点るわたしの信号機
斉尾くにこ
バス停がかけらになって雪のふる
きさらぎの風船をつく気象予報士
死んだふりにちいさいマルをつけられる
澤野優美子
川の向こうはいつも雪の降る国
灯篭を倒して母が家を出る
ロッパ来るマスク外してほほ笑んで
重森恒雄
わたくしの嫉妬につける湿布薬
この男まだ竜巻をもっている
いつだってしんじていますひらけごま
芝岡かんえもん
残日やリンゴの皮を剥き終わる
神様は流行りの靴を履いている
逃避行 臨時停車は無人駅
昌善
サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド聴きながら、溶けてゆくキャラメル みたいな
「玉ねぎを刻む少女」の昼休み
元カノと乗るはじめての夜行バス
須藤しんのすけ
春は曙わたしの白が浮きあがる
本物の恋を知らずに品定め
護ってみせよう江戸の火 夜鷹蕎麦
妙
海底のうさぎに贈る蜜柑だな
サーモンのあなたが少し咳をした
さくら、産み落としては骨になる
千春
奔放な青が行間あふれでる
忘れもの夢の中まで取りにゆく
溢れでた涙は星に吊るしましょう
西田雅子
純ココア ティラノの孤高説に異説
やわらかいフォントに変えて飛び立たす
風花の辻また明日またいつか
芳賀博子
長い夜が明けて窓には白い月
七草粥わけの分からぬ母と食む
シェイクスピア閉じては覗く深い海
林 操
コロナ禍であなた儲けていませんか
寒波襲来今は昔が口に出る
風花のあわれは宙に消えてゆく
飛伝応
ウィンウィンという合理的処方箋
デジタル化できぬ味覚も嗅覚も
余計なことするなよ並べ替え機能
平尾正人
七草仏滅れんこん切ってゆび切って
じゃんけんでゲット天国のアドレス
山暮らし冬の夕焼け独り占め
弘津秋の子
推しの詩同心円の芯に咲く
ふたりなら解る光のつくり方
また次も花いちもんめではあなた
藤田めぐみ
肩そっと抱かれてセキュリティ解除
お笑いを一席監視カメラから
アバターでイケメンになるザ・切り札
藤山竜骨
ガラス細工泡がポワンと夢世界
フーテンの夫操る鵺の妻
ユートピアポストに聞いて旅の空
堀本のりひろ
片羽の骨まで愛す難しさ
雪の中ちゃんと私はここに居る
海近し笹船下る 過去は過去
毬じゅん子
