総評

2022年2月   西田雅子

会員作品第7回をお届けします。
厳しい寒さが続いていますが、春はもうすぐ。
耳を澄ませば、春の足音が聴こえそう。
新しい仲間を迎え、ゆに、新たなスタートで

今月の風

潔白の証にくるぶしを見せる
宮井いずみ

くるぶしは普段は靴下に隠れていたり、靴から覗いている程度にひっそりと地味な存在。皮膚一枚に覆われているポコッと丸く突き出た骨は、無防備に見える。その無防備に突き出た小さな丸いくるぶしが、潔白を主張しているように思えてくるから不思議。「え、くるぶし?」と思いつつも、無防備さと思いもよらないものを平然と見せられることで、妙に納得させられてしまうのかもしれない。

昼のそのハシビロコウの嘘話
岩田多佳子

ハシビロコウは「動かない鳥」として有名。川魚などのエサを捕えるために、数時間じっと動かない。微動だにしない。ハシビロコウについての嘘話なのか、ハシビロコウが話す嘘話なのか、両方に読めるが、ハシビロコウが長い時間、嘘話に頭を巡らせていると読むほうがおもしろそう。時間に追われるいつもの昼間、止まったようなハシビロコウの時間の中の噓話に引き込まれてみようか。

バス停がかけらになって雪のふる
澤野優美子

降りしきる雪の中、バスを待つのに寒いことと言ったら…。手と足の指先まで冷え切っている。雪の中では、別の世界に吸い込まれるような錯覚を覚える。間断なく降る雪と雪の間に見えるバス停は、まるで降る雪に砕かれて、かけらのように…。あっ、バスが来た!

サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド聴きながら、溶けてゆくキャラメル みたいな 
須藤しんのすけ

「サージェント・ペパーズ・…」は、絶賛を浴びた1967年のビートルズのアルバム。しんのすけさんのビートルズ愛がすごすぎて、五七五を溢れる句に。この曲を聴いていると、1960年代の熱気と思い出が押し寄せてくる。まったりと甘いキャラメルと共に溶けて、今でも口の中に残っている切ない甘さ。あの熱い時代にはもう戻れない、みたいな。

さくら、産み落としては骨になる
千春

「産み落とす」「骨になる」には、生の喜び、死の悲しみは感じられず、クールに生と死をみつめている。人の一生が一瞬であるとも。「さくら、」に永遠の中で繰り返される生と死が、無常感とともに象徴されているよう。まるでさくらが次から次へと花びらを産み落とし、地に舞い落ちた花びらは、たちまち骨になってしまうかのように。

じゃんけんでゲット天国のアドレス 
弘津秋の子

じゃんけんに勝って、天国のアドレスをゲット。天国行きは、日頃の行いで決まるのではなくて、まずはクラシックなじゃんけん。そのあとは、天国のアドレス宛にメールをして、問い合わせる。アナログとデジタルを駆使して天国へ。

お笑いを一席監視カメラから
藤山竜骨

いたるところに設置されている防犯カメラや監視カメラ。犯罪防止や犯人検挙に効果があるようである。ここでは、監視カメラへカメラ目線で、「えー、お笑いを一席、」と始める人物がいる。挑戦なのか、単に目立ちたいだけなのか。その映像に大笑いするか、固まるか。監視社会への風刺の効いた一句。

ふたりなら解る光のつくり方
藤田めぐみ

光は差してくるものではなく、つくるもの。ふたりなら解るつくり方。まるでテーブルや椅子を作るように「ああして、こうして、…」と、協力し合って、光を丁寧に作りあげていくのだろうか。ふたりの未来を明るく照らす光。今、ふたりは輝きの中、なんて素敵!