2022年7月

顔なじみ鳥のカップル威嚇飛び
せっかちな蛍生き切る二週間
一人の時間安威河原0番地

弘津秋の子

向日葵は時々デリカシーがない
切った爪の方へとタマシイが移る
ちょっとでも揺すれば恋になってしまう

藤田めぐみ

青空とペットボトルと魚の目と
パチスロに恋して家が傾いて
ポスターに会釈日本を頼んだよ

藤山竜骨

赤いチュウリップしっかりと咲け永遠の世へ
鷹に乗りスカイブルーを突っ走る
佃煮は二人の愛を煮詰めたの

堀本のりひろ

長雨に口一文字ツバメの子
我こそは親孝行と自己暗示
助けられ一羽で暮らす鳩の声

毬 じゅん子

カンカン帽柴犬ひょいと横抱きに
鳩羽干しヨガのポーズにあるかしら
ねこ草はすぐ伸びシャララ夏の風

宮井いずみ

瓦礫道たのしい方へ走るひと
ぼく以外わかりっこないぼくの傷
休みすぎてたら起こしてくれますか

本海万里絵

言えなくて月兎耳さんに打ち明ける
匂いたつ熟れ無花果のうなじさえ
青い森ふるわす雨はト短調

森平洋子

宅配の果実の匂い走り梅雨
友情をミステリアスにたたむ夜
星の降る広場で万国旗の不穏

山崎夫美子

あるだけのカネをリュックに入れなさい
助手席の犬が原因だった事故
無職とは酒とスマホとスニーカー

吉田利秋

傾いてきたので藍染のあい
ミリミリと遠ざかってくお母さん
シュメールの響き率いて絵文字ピコッ

四ツ屋いずみ

遺失物みつけたはずの亡母の翅
佇めばもっともっとの血がたぎる
壊されず毀さずゆけという陽射し

吾亦紅

紫陽花の今は盛りの黙秘権
黒点の裏と表にある世界
分岐する数だけ別の靴を履く

阿川マサコ

戦火は続く満月いくど渡ったか
来し方やハーブの庭の小暗がり
初夏のチェロの奏者は老いた友

浅井ゆず

駆け抜けろアマゾン大橋君ならば
アマゾンの星空君も恩師も彼岸
南十字星に誓うわたくしは負けない

朝倉晴美

坂道を巻き取っていく左腕
スピリット散りだす直線のままで
林檎の皮くるりふわりと旅立とう

岩田多佳子

紫陽花の青きっぱりとマイウエイ
指示語飛ぶ珈琲とアレだけが不明
さあどうぞと歯医者の椅子の柔すぎる

海野エリー

裸足ですあなたのお返事待ってます
向日葵がぼくのドキドキ隠してる
燕飛ぶシグナルは今全部青

おおさわほてる

掌に雨の匂いを閉じ込めて
あと二人揃えばドクダミになろう
あじさいを雲に咲かせたのはだ~れ

岡谷 樹

展望券分かりあえないけどあげる
六月の冷えとだらだら黙食す
片足を浮かせて日付跨いだり

小原由佳

乾かない手紙へ持続可給付金
百万本の薔薇を歌っている天使
考える人の足から梅雨になる

笠嶋恵美子

ルート66あんたが待っていてくれる
睡蓮の下では足を絡め合う
アオガエルの卵ふわりと転生す

川田由紀子

投げやりな後半生ね桐の花
銭湯のデッキブラシになった兄
青葉梟あなた水洟垂れてます

河村啓子

手相から二色足りない虹が出る
イカロスを超えゆく呟きの飛距離
無理数とダルマ落としのラプソディー

菊池 京

手に聞いてください筆に聞いてください
象に乗るロール水彩紙背負って
梟鳴く闇に鈍色の流れゆく

北川清子

通された黴の匂いの奥座敷
軸足を踏みかえながら生きている
飛び出し禁止叱られているカンガルー

黒川佳津子

チーズよりパパは不倫で忙 しい
棒読みの仲間由紀恵似の友達
のぼせない温泉に平山さん

河野潤々

人の世に悪目立ちしたエビフライ
湖底ではマリモのダンス鮭の恋
鳥になるときぱほぉーんと鼻あげる

斉尾くにこ

リラ冷えの蝶形骨にご祝辞を
孤独でも異端でもいい自由席
インスタ映えにまっぴるまのワコール

澤野優美子

充分に長生きをした指の傷
水がない大阪へ行く水がない  
ホークスの松田に打てぬ球ばかり

重森恒雄

若い時しゃべってくれたソーダ水
振り落とす僕の雫という雫
泣きながらたっぷり聴いた八代亜紀

芝岡かんえもん

決心を迫って今日の蝸牛       
真実を語れと迫る火焔土器  
告白を迫って浮かぶ花筏 

杉山昌善

青空は落とし物でもいいですか
モザイク的なプロメテウスの罪と罰
おくれ毛に風紀委員の赤を足す

須藤しんのすけ

三菱は私の中でユニである
下書きで真っ黒にする5分前
鉛筆が迷画を描く長電話

受話器から畳んだ月をあなたへと
飛行機よ洗濯槽へ連れてって
むずかしいことはよくわからない、桐の花

千春

雨脚を掴めば握りかえす雨
ストローでつつくソーダ水の思想
雨の日は取り込んでおく天の川

西田雅子

缶パイン途方に暮れたがりどうし
吸汗速乾吸汗速乾辻地蔵
似顔絵と海で始まる旅ノート

芳賀博子

竹藪の向こう兵士帰還せり
漠然とそうねそうねと暮れていく
ふくらはぎ痩せてこれから道険し

林 操

地球儀の上で取ったり取られたり
常在戦場令和も江戸も人は生き
強引は人だこぼれる手巻き寿司

飛伝応

始まりをなぞる終わりにするために
いつ誰に言おうか夜の片隅で
野放しの嘘だが誰も傷つけず

平尾正人

総 評 2022年7月 西田雅子

会員作品第12回をお届けします。

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