あさがおがさいた電車がきたら乗る
なかはられいこ
なかはられいこさんの新刊『くちびるにウエハース』より引く。
本書は『脱衣場のアリス』から21年ぶりの、待望の第3句集。
この間に詠まれた、たとえば
〈ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ〉
といった代表作をはじめ、厳選の227句を収載。
さて今日の一句。
「あさがおがさいた」
「電車がきたら乗る」
それぞれは、ただごと。
なのに、つながって十七音になると
ただごとの連続の、
ふだん意識すらしない日常の輪郭が
不意にあやふやになり、胸が波立つ。
今年も朝顔が咲いた。
今朝も咲いた。
ちゃんと。
電車がきたら乗る。
今日も乗る。
ちゃんと。
日常は、そんなささやかな「ちゃんと」で成り立っている。
でも、ひょっとしたら電車はこないかもしれず、
もしや自然の摂理ですらも奇跡の連続やも。
その中に、私もぽっちりと存在していて
私も電車がきたら、乗ろうと思う。
ちゃんと。
さて、車窓からの空は、
今日どんな色を見せてくれるだろう。
はじめてがいまだひそんでいるからだ
きんもくせいめいおうせいと目を瞑る
東京のキョでいっせいに裏返る
如月のはたらく空とはたらく木
ひじき、ひじき、踊ってくださいと言う雨だ
(句集『くちびるにウエハース』 なかはられいこ
左右社 2022)
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