よそ行きの梨が届いて秋を知る
何やかや家事に追われる秋の空
平凡な日々に満月愛でている
林 操
比べてはならぬ令和の国葬儀
マスク外しいかつい顔をとりもどす
怖くないお化け屋敷をウリにして
飛伝応
楽になるための努力は惜しまない
求愛のダンスは靡くまで続く
騙された振りをしている騙し合い
平尾正人
じゃんけんぽん行く手を阻むネコジャラシ
アベマリアピアノの蓋を開けますよ
てくてくてくあっけらカーン秋の空
弘津秋の子
潮風に吹かれ半端なメランコリー
性急に入力されて不眠症
手のひらの火の玉見せてしまおうか
藤田めぐみ
錦秋の前頭葉がチンと鳴る
風鈴がここにおるぞと秋の暮
赤勝て白勝て証券取引所
藤山竜骨
百までも生きていきますまだ八十路
思わず演歌絶好調の今日の僕
母さんの手提げ袋は玉手箱
堀本のりひろ
栗のイガ蹴ればコツンと河童橋
刷り込まれた古い価値観ひがんばな
それぞれのかつては土となり初秋
宮井いずみ
阿と吽の間に立って咳をする
すぐ触るメロンのお尻盂蘭盆会
無期限の筈なのに持つ定期券
もとこ
朝ごとに生まれるために死ににいく
聞きますよきみをむしばむ毒のこと
なんどでも言う誕生日おめでとう
本海万里絵
ぶらぶらと組んだ足が退屈で
底のない夜を埋めてく雨の音
菓子パンを両手でつつみイートイン
森平洋子
摘蕾の指の躊躇を知っている
風鈴をしまう儀式として月夜
遠景に入るなわとび跳ぶように
山崎夫美子
カジノには維新の旗が立っている
身を切ってサウナに通う市長さん
府知事の叫び 俺はカジノが好きなんだ
吉田利秋
花嫁の泣き顔幼な子のまんま
鳳凰と目が合う蝉の声とぎれ
ご褒美の夜の滑走路フィナーレ
四ツ屋いずみ
ふところに砲音を聴くセミの声
向日葵の向きそれぞれに目を伏せて
10分は長い 人生と同じほど
吾亦紅
寝つけない夜や蛍をよびもどす
真鍮の鍵はネジ式彼岸入り
雲のありか風のみちすじ軍靴鳴る
阿川マサコ
いうなれば私も老婆おみなえし
かたつむり実は毒舌吐いている
虫すだく ちょっと覚醒しましたよ
浅井ゆず
リオデジャネイロビキニに止まる黒揚羽
ハイビスカスビキニのヒップに蜂鳥よ
「失礼だ!」言いたくなって雨季が来る
朝倉晴美
僕が見る青はあなたの青ですか
一粒の葡萄が月を光らせる
可能性あるから美しい余白
伊藤良彦
小銭は足りないし秋に遅れるし
ひとしずく落下した音けたたましい
力学的お好み焼きの底にいる
岩田多佳子
目覚めると好きだったこと知る絵本
血圧計今日の機嫌も測ってよ
ギター弾く頑張れわたしと言いながら
海野エリー
露草のそばを鯨の通り過ぎ
海月だけ僕の悲しみ気がついた
ねこじゃらしブロック塀と彼が好き
おおさわほてる
アラームの鳴る前まではくすぶって
絶叫マシーンあなたを口説く術がない
喧噪を消せばリストのノクターン
落合魯忠
眠くなるニトリの寝具コーナーで
寂しくはないというのにみんな来る
包み紙ガサという音だけ残る
小原由佳
コスモスの迷路に沈む雨の夜は
ウマオイが胸のすきまへ飛び込んだ
彗星のしっぽ咥えたまま眠る
笠嶋恵美子
ミニオンの誰が誰やら秋が来る
伏線を散りばめている鳳仙花
仲裁に一反もめん顔を出す
川田由紀子
片方の靴を時々見失う
ボンネットに載せられている軽い首
襞襟を滴り落ちる乳脂肪
河村啓子
影踏みの影追って出る非常口
天かすが教えてくれた渡世術
小石踏む夢のベクトル苦笑い
菊池 京
顔売って言葉を売って色売って
土地土地にしがみつかないだから何
風受けて風を吹かせて風となる
北川清子
人違いでしたと逃げる赤トンボ
異人館育ちのように神戸っ子
私のようゆらりふらりと秋の蝶
黒川佳津子
仮縫いを定規か物差しで揉める
完コピのきつねダンスよ古都の雪
形状の記憶の飛んだシャツが似合う
河野潤々
きき耳のみみの形をみていたり
花束は薄切り肉で巻きましょう
上質な時間水中大花火
斉尾くにこ
ぶどうの蔓の筋力を持ち合わす
終電や何だかあきてきた景色
ご挨拶たたんで炙るするめいか
澤野優美子
白い車の列がジリジリ動く
何も知らない男に和える酢味噌
親しくはなかった驢馬が死んだらしい
重森恒雄
この恋の訂正したし二本線
逃げ水に逃がしてあげる水すまし
黒い血をたっぷり吸わせ蚊を潰す
杉山昌善
五番目の扉の鍵は持ち歩く
夏服の計算された隠し味
愛してる?今夜は眠れそうにない。
須藤しんのすけ
サーフィンの波に押されて光まで
乗る舟はみんな向こうに着いている
ブレーキが効かない彼と二人乗り
妙
スマートホンのホンのほとりを舞うひと葉
小説を抜けてヒロインぶらんこへ
ぽっかりと空のため息かしら 雲
西田雅子
社史のこのあたりでみてた天の川
栗もなかツッコミ力が落ちている
実石榴のまだまだ推敲の途中
芳賀博子