2022年11月

くるぶしへはるかを運ぶ秋の海
トルソーとひと息いれるゆずレモン
蛹ふくらむ転調を繰り返し

芳賀博子

ちぎれ雲遊ばせている旅心
脳内が春夏秋冬嗅ぎ分ける
魂の行き着く先は夜叉が池

林 操

敷地内侵入そこに日陰あり
ここまでは許容範囲の迷い道
行先にはたと困った救急車

飛伝応

零れ落ちた言葉の切っ先が痛い
運命と体は密にして一つ
明日のこと話そう今を抱きしめて

平尾正人

我が家だけ真っ暗になる十三夜
一瞬に光の消える国もあり
「平城山(ならやま)」を歌う 恋しき人は母

弘津秋の子

パフェなぞに魂売らぬ栗でいる
見放題なんてみくびらないでよね
真相はドライマンゴーみたいなもんさ

藤田めぐみ

秋熱くお次は写真展になる
萩咲いて株式会社ひと跨ぎ
名刹の食べて貰えぬ柿実る

藤山竜骨

白旗を揚げてばかりの生き地獄
御声明睡魔の誘い夢心地
妻の白髪やんわり秋の風

堀本のりひろ

洗い物しなくちゃ尻尾かがらなきゃ
洋梨のカーブはバイオリンの音色
秋晴れの象舎のひびは笑い皺

宮井いずみ

だまし絵の窓のむこうに白い舟
天国の自動扉が開かない
コピー機の舌が吐き出す挑戦状

もとこ

好きだからとりとめのない話する
やわらかい家に守られてるひとり
ともだちの母のおやつの味が好き

本海万里絵

竜胆は淋しくないよとここに咲く
我という数式を解く長い夜
星仰ぐ枯れ葉の匂い嗅ぎながら

森平洋子

リセットの秋メレンゲはまだ途中
柘榴の実にっと笑って風を撒く
袋小路で盗人萩を振りかざす

山崎夫美子

かけ放題最長タイム三時間
かけ放題五分以内とクギ刺され
かけ放題トイレの水は後にする

吉田利秋

けさの守り神オレンジの稜線
気の抜けたウィルキンソン並みにグチる
月魄と呼吸あわせたらおやすみ

四ツ屋いずみ

遠い日をなだめるように夕暮れる
月眠る 晴れ間切れ間のない闇夜
弟の視野いっぱいに今銀河

吾亦紅

留守神の下から数え三番目
青空だんだん前へ倣えはキライです
雲呑のひらひらだった私たち

阿川マサコ

銀杏にも大粒小粒そんなもん
秋夕焼けあちこち絆創膏だらけ
祭り太鼓は三年ぶりよ晴れ渡る   

浅井ゆず

ココ椰子もどいつもこいつも頭カタッ
飛行機はマイアミ便アイツが帰る
雨季の入り口友の息子のお嫁さん

朝倉晴美

本当に杉は真っ直ぐ伸びたいか
潔く散った紅葉も燃えるゴミ
まな板の不平を聞いたことが無い

伊藤良彦

「アッ」という顔できのうの石になる
とは言うものの生卵立っている
ダリの時計枕詞とあそびたい

岩田多佳子

夕焼けがきれいオムレツをあなたに
ラ・フランス毎日がみちくさ曜日
こわがりの心を留める貝ボタン

海野エリー

コスモスのここから先はドラえもん
お湯注ぎ3分待ったらオリオン座
ミサイルポンキンモクセイパン高木ブー

おおさわほてる

お別れにメインディッシュの魚図鑑
不意打ちにミヤコワスレを抱きしめる
言い訳にジェラシー的なコンセプト

落合魯忠

どんまいと青いトマトが並んでる
発声はご無用英字ビスケット
青空と馴染むさっぱりした日記

小原由佳

眦を決してハエを追っている
跳び箱の六段目から雨になる
ミサイルも芋もじっくりと煮込む

笠嶋恵美子

雲流れ河馬がくしゅんと嚏する
再びの我らマーブルチョコレート
葛の花突然道を塞がれる

川田由紀子

反省の印に露と露草と
にごり酒たとえば父の半世紀
いい淀む長い時間を生きてきて

河村啓子

物言わぬ蝉で良かったのか驟雨
爪を研ぐバターナイフで終われない
土踏まず鍛え直して第二幕

菊池 京

描くにはハートが大事秋の声
額装の紐その辺にあったやつ
よく描けてるよって夫が見てる先生の絵

北川清子

眉唾の話に乗ってみるバッタ
目が合えば恋になりかねない空だ
星を追う遊牧民になるベンチ

黒川佳津子

髪型はやおら東寺を出たあたり
作用点消えた天使が持ち去った
冷めた珈琲に新幹線の風

河野潤々

水槽に入れて羽衣見ていたい
喉にある鵜呑みの溶けていくころに
ばらばらにつながる同じ海の底

斉尾くにこ

洋梨のハッポウビジン的な被布
その折はサザエのおやき携えて
九丁目まで蒟蒻ゼリー揺れて来る     

澤野優美子

熟柿べったり介護度がまた上がる
和やかに煮た豆食べる父母祖父母
祈りつつ苦いと思うビターチョコ 

重森恒雄

野火這わせ二人の汗が混じります
無風たり神主さんがやって来る
独り飯 月月火水木金金

杉山昌善

サングラス持てあましてる白い指
脱皮するコントラバスの髭の数
気づかれることない罪と君の嘘

須藤しんのすけ

逆立ちのオタフクソースにあっぱれ
北京ダックになりそこなった参鶏湯
こんな日はブロッコリーと腕相撲

エッグタルト秋のひかりの味もして
ゆめの字が流れる特急の車窓
ありったけの紅を叫んで散ってゆく

西田雅子

総 評 2022年11月 芳賀博子

会員作品第16回をお届けします。

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