恋をしているから雨の運動場
桒原道夫
雨の運動場、か。
句から雨の匂い、土の匂いがする。
初めての恋なのかな。
これまでに経験したことのない、
こころのどこかが
きゅっと掴まれるような痛みに戸惑って
雨の中、走っている。
ボールを蹴っている。
あるいは、ただたたずんでいる。
でも主人公がもうとうに大人で、
中年だったりしたら、
フェンス越しに、ぼんやり眺めているだけかもしれなくて
それもまた、味のあるシーンと思う。
さても「運動場」がいい。
もし「グラウンド」ならば、
フツーにキラキラした青春句。
だけど「運動場」は
読み手一人一人にさまざまな記憶を喚起し、
郷愁や情感をも醸し出す。
作者の桒原道夫さんは
今秋、「川柳塔」9月号より編集長に就任。
氏が編集を手掛けた
『麻生路郎読本』(川柳塔社 2010)や
堺利彦さんとの共編『近・現代川柳アンソロジー』(新葉館出版 2021)は
読み物としての面白さもさることながら、
川柳史の貴重な資料でもあります。
『川柳作家ベストコレクション 桒原道夫』
(新葉館出版 2018)
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