2023年2月

マザコンの仕舞い忘れた猫の舌
ワタシノ世界ヲアゲルダカラ笑ッテ
真っ新なスマホと話す長い夜

須藤しんのすけ

ファンファーレまだ右足が動かない
最新の機種と右手の指相撲
右肩が上がり続けたシャボン玉

それぞれに言い分がある蛸の足
ご不満があるならリモコンBボタン
心電図に記録されてく不真面目さ

浪越靖政

香水の一滴ずつに物語
黙約が肩を寄せ合う冬の底
しゃぼん玉を出てゆくきさらぎの船

西田雅子

物理的に痛いだけなんだKOKORO
人間が減った月が呑んだらしい
乾しても乾しても憎悪は水っぽい

西山奈津実

生家にて日めくりの音雨の音
寒明けて一直線の裁鋏
眉の山芽吹きの山へ連ねゆく

芳賀博子

「ザリガニの鳴くところ」へと迷い込む
美しい朝だ騙されてもいいな
キャラメルの甘さで母を宥めてる

林 操

堰きってテレビに抱負あふれ出る
病み明けの友とわたしのハイボール
裏切りが体験できる列につく

飛伝応

ハッカ味が当たる缶入りドロップス
正常になった異常に慣れすぎて
先制と反撃歯止めない軍備

平尾正人

寒夕焼子どもが帰って行った日の
先輩の訃報兎の後ろ向き
サトウハチロー「秋の子」を口ずさむ

弘津秋の子

ひとめぐりしたけど片手一個分
頃合いを探るレタスを撫でながら
通知を切らないと雨は上がらない

藤田めぐみ

ママチャリのWワークに会釈する
ワイン風呂おじさんたちが指舐めて
縄跳びを止めない自称チャンピオン

藤山竜骨

大吟醸ちょこっと呑んで猫が虎
日課です朝日川柳まず開く
ヤジロベーこだわりすぎて枯れ尾花

堀本のりひろ

連休あけ火曜必着雪もよい
駅からの道だけに降る小夜時雨
終活はバランスボール揺れながら

宮井いずみ

護摩堂の火に煽られる初詣 
雪空に芽吹き初めてる老桜樹
暗転にきらりピエロの涙の目

もとこ

凍る朝しろくまあるい歌を吐く
ぐずぐずとしてたこれからだったよね
焼け焦げた色をしてるね宵のきみ

本海万里絵

外は雪ささくれ立った指を抱く
カオナシに似た鳥を追う冬の虹
ハイジャンプ星一列に並ぶ夜に

森平洋子

着払いですか帽子の中の鳩
一月の凧が見たくて野末まで
吹雪く夜の風土記は軽い咳をする

山崎夫美子

考える男に干していたパンツ
もう一人私がいたらすぐ喧嘩
不良からカネを取られた映画館

吉田利秋

今どきのおまじないなら漢方アロマ
なんぴとも見落とさないとブリューゲル
胸郭を広げるひとり冬時間

四ツ屋いずみ

朝一の介護ほうじ茶共に飲む
来世はいらぬ十分生きました
ニッポンの青うさぎ夢シュートする

渡辺かおる

吹雪かれてススキ羽衣小町刻
凍てついて吐息はみんな花の彩
花眠る雪消の空と逢うために

吾亦紅

切り落とす過去と未来の痙攣す
串刺してあげよう君の不連続
どんど焼きTikTokの小鬼たち

阿川マサコ

ブラボーと叫んで年神を迎え
ピピと来てピピピと去ってゆく吉は
風の柵跨げば待っていた二月

浅井ゆず

黒い暗い大河ボサノバが聞こえる
泣かないよ転出の子に南十字星
スコールの匂いアマゾンインジオからキス

朝倉晴美

右手には罪が腹にはため息が
追いかける自由はあっていいはずだ
決断は僕の背中の鬼がする

伊藤良彦

真面目な君の書く文字は棘だらけ
今日のエゴ痛々しいほど手強い
冬なのに胸に熱狂的な雨

稲葉良岩

春がくる生け垣またぐようにくる
沈みゆくスポンジ免許更新日
半身は雲 半身は綿レース

岩田多佳子

三角も褒めればきっと丸くなる
夕暮れのふたりの仲を割るカラス
蜂蜜を垂らすわかっていないから

海野エリー

雪降ってQRコードが読み取れない
バドミントン大きな輪の中冬木立
冬の虹爪の中にもありました

おおさわほてる

ちちんぷいぷいことばはみんなみなごろし
ホッチャレの口にカチャッとほっちきす
饒舌なクレオパトラを持て余す

落合魯忠

寝ない子だれだ眠れないのは私だよ
モンゴルの草原仕様抱き枕
真に受けた人に早めの春模様

小原由佳

切り株に汗泛く夜を悶々と
あでやかに朱の盃が濡れている
不覚にも一滴こぼす迷いごと

笠嶋恵美子

黒豆が残って訃報やって来る
辿り着く父の煮詰めた金柑に
こいさんはチュロスばっかり食べて春

川田由紀子

うたた寝のあいだに埋め草になった
長すぎるドアチェーンになっている
兎にも穴を掘るのを手伝わす

河村啓子

留守電にツッコミ入れて飲むココア
雨漏りは夏の裏切りレモン水
沈黙に耳そばだてる芋サラダ

菊池 京

モチーフは虚ろとなって宵の刻
日本橋星と出逢えば酒となる
抽象で重たきドアをノックせよ

北川清子

ペテン師の血筋で舌が柔らかい
ライバルはヘップバーンよ泥パック
一日を負け越した目に大落暉

黒川佳津子

主体を持たぬ雪ひき波のかすか
選択肢多く飲み会だけ残る
お手盛りのお悔やみラインからタイパ

河野潤々

カーテンを開けると不確実な空
吸って吐くクラゲの脚になりきって
冬枯れの丘にはちみつ色の家

斉尾くにこ

きさらぎの母の忌つつむたとうがみ
鳥の名をもらって橋をわたります
あなかしこペデイキュアのいろ決まらない

澤野優美子

サボテンの背が伸びたまに来るメール
夜はまた布団の中で待っている
止まらない電車ばかりの駅の自販機

重森恒雄

泡の下ビールの中にある無音
野原には昭和の恋が咲いている
余命かな消えてしまった喉仏

杉山昌善

総 評 2023年2月 西田雅子

会員作品第19回をお届けします。

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