今日の一句 #578

鳥籠が壊れるまでは鳥でいる
岩渕比呂子


ヒトは鳥になりたい、
そして自由に羽ばたいてみたいと夢見たりする。
では鳥は。


さて本作。
鳥籠が、たとえば経年劣化で壊れるまで、
あとどのくらいかかるのだろう。
でも待つ、の意志はかたそう。
そして壊れたあかつきには、
すべてから解放され、
一体何になり、どこへ行きたいのだろう。


はたまたこの鳥、
鳥籠が壊れるという

如何ともしがたい事態になるまでは、
ただただ「籠の鳥」なる責務を
まっとうしたいと願っている、
かなりの律義ものなのか。

籠の中を見つめるほどに、
一羽の深層に惹き込まれる。 


今日の一句は新刊句集『常世草』より引く。
著者の岩渕比呂子さんは北海道在住。
本書では句歴二十余年の作品から

厳選の252句を収録。

 母系だろうか芋の花が好き
 ガガさまババさま真面目な濁点

 告白が一拍ずれた蝉の殻
 苔玉になるまでうたう反戦歌
 何卒が鳥居をくぐる雪の靴



(令和川柳選書『常世草』 岩渕比呂子/新葉館出版 2023) 

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