今日の一句 #580

数え唄 椿のばっくみゅうじっく
八木千代


ふと口ずさむ数え唄が
今日の椿のばっくみゅうじっく。

数えているのは咲いている椿、
はたまた落ちている椿。
あるいはただ
幼い頃より身にしみこんでいる唄が
我知らずこぼれでた風でもあり。


とまれ、そんな姿がなんともなまめかしく、
そして背後にひそむものがたりへと

想像がいたる。

「数え唄」に流れる、古よりの時間。
モダンな言葉であるはずの「ばっくみゅうじっく」は
平仮名表記によって奇妙な味と可笑しみを

醸し出している。

ちょっと横溝正史の世界などよぎる

風土と時間にはぐくまれた
ミステリアスなものがたり。
その中をひととき無邪気に椿とたわむれる

主人公と椿の美しさにうっとり。


(句集『椿守』 八木千代/葉文館出版 1999)

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