今日の一句 #588

路地の空鯨の空となり夕焼
淡路放生


路地から見上げる空を鯨のごとき雲がゆったりと横切る。
いや、ほんとうの鯨か。
夕焼色に染まった鯨は
子どもの頃に出会ったままの姿で
ゆったりゆったり、遠ざかってゆく。


どこかノスタルジックな路地の景と、空の広がり。
老いゆく身と、身の内の変わらぬ少年性。
見果てぬ夢のような鯨が
如何ともしがたい余韻を醸し出している。

本作は、この4月1日に発行された「川柳 葦群」第65号より引く。
「川柳 葦群」は柳川市在住の梅崎流青さんが
編集・発行人を務める季刊誌。

超結社で、実力派の作家諸氏が作品を寄せられ、
淡路放生さんの新作が読めるのも嬉しい。

淡路放生さんは1942年生まれで、
『淡路放生川柳集』(展望川柳社 1978年)は
ピカレスクロマンの香り漂う刺激的な句集。


今も、孤高を貫くようなストイックな作風が魅力で、
氏の作品を味わうたびに背筋が伸びる。
以下も、「葦群」最新号から。


 旧約聖書の空をふくろう急ぎけり
 枯草の枯れてキョロキョロする勿れ
 この木ゆすれば年末ジャンボふってくる

(「川柳 葦群」第65号 2023年4月)

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