ポストまで妻の帽子を借りていく
松田俊彦
日差しがきついもんで、
手近にあった妻の帽子をひょいと拝借。
まあポストはすぐそこだし
ご近所さんに遭遇したところで、
誰も「あら、奥さんの」と見とがめるでなく、
笑顔で会釈し合って。
そんなごく日常がシンプルに切り取られた一句に
くすっと笑って、ほっこりする。
そしてうなる。
このカッティングの鮮やかさ。
ポストへの行き慣れた足取りや
界隈のたたずまいや、夫婦の暮らしぶりまでもが、
味わい豊かに伺える。
作者の松田俊彦さん(1936-2012)は
生前、奈良番傘の会長で「川柳大学」会員でもいらした。
タイトルの無い、ツバメノートを模した遺句集は
開けば穏やかにやさしい風がそよぐ。
泣きやすい場所にはいつも誰かいる
旧陸軍の暗号表で開くはず
そのかわり金魚一匹買ってきた
(松田俊彦句集/発行 with えんの会 2013年)
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