柿たわわ色鉛筆を買いにゆく
弘津秋の子
デジタル疲れの目にこんな句がやさしい。
そして面白い。
街かどの柿たわわに目をとめて、
おいしそうより先に、
てらりと艶やかな色に反応して
さっそくその足で色鉛筆を買いにいっているような展開。
とうの昔に処分した色鉛筆を
久しぶりに手して、スケッチでもしたくなったのかな。
それとも誰かに絵手紙などかきたくなった?
さても「たわわ」とは、なにやらほがらかな言葉だ。
意味もさることながら
あ段の音の三連続。
口ずさめば口がまあるく明るく開いて。
また、その「わ」「わ」や、
買いにゆくの「ゆ」のひらがなの字面のまるさが
見た目にもやわらかい。
たった十七音の中にも
実りの秋、芸術の秋、到来。
(句集『アリア』 弘津秋の子/あざみエージェント 2008)
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