今日の一句 #618

暗黙を泳ぎ出てゆくタライロン
斉尾くにこ


アマゾン川流域に棲息する魚、タライロン。
鋭い牙を持ち、物陰に潜んで、
通りかかった魚を捕食するという、
なかなかのコワモテ系。


掲句、「暗黙を」にゾクリ。
暗黙の了解として、ミッションを遂行しようとしているのか。
とすれば誰との暗黙なのか。
タライロンには黒幕がいるのか、
と、思わず句の余白の奥の奥にまで目をこらしてしまう。
また「暗黙」の一語は
暗闇、暗躍といった語も次々に想起させ、
「泳ぎ出てゆく」一瞬の前後にも

スリリングに物語が広がる。
脳内で映像化するうちに、私もいつしかアマゾンの水底へ。
ふとタライロンが振り向いた。


(ゆに 公式サイト
今月の会員作品」2023年11月)

過去ログはこちらから▶