横顔にふかぶかマンタよこぎる日
やわな小舟の寄るべない砂時計
蒟蒻にパヴァロッティはよくしみる
岩田多佳子
これからをブロッコリーに言づける
白薔薇の主張はいつも演歌調
ぶらんこの二人乗りしてそれっきり
海野エリー
磯巾着次の停車はチューリップ
ビッグバンこのタンポポから始まった
タコだけが夏の扉を開けられる
おおさわほてる
はるばると違う道から来た右手
打楽器になった机がビバサンバ
平穏な部分に当ててくる定規
小原由佳
牡丹散る十二単を脱ぐように
襟足のほくろまぶしい 春の海
藤棚の下でベールを脱がされる
笠嶋恵美子
浄化完了です針が重なれば
鍵穴を覗く三番目のまなこ
味方につける谷線も山線も
桂 晶月
紫陽花の首重すぎてクライシス
サボってた横隔膜が動き出す
仏壇にどうして翅があるのだろ
川田由紀子
雨安吾のふむふむ笑う土踏まず
でんでん虫 レタスの上の孤食
だからね星は何でも知っている
河村啓子
渡された序章の森が深すぎる
CCの宣戦布告受けて立つ
暗黙知雲の薄さが運ぶもの
菊池 京
塩を掃く海の向こうの箒だよ
島々は連なっている国越えて
かの土地の蘭はいったい何色か
北川清子
議論白熱 枝豆の皮積み上げて
妖精の羽音聞こえる麦畑
告白はスワンボートが着いてから
黒川佳津子
六月の青は寝かせるフレスコ画
梅雨雲を連れてソドムへ行ったきり
フレームの一枚で足る糸雨の私語
黒田弥生
ホホバオイルで酸化滑舌お通じも
昼寝する陳列棚に棘がある
下書きを消して萌えだす滑走路
河野潤々
霧雨の洗練されたフェイドアウト
砂浜にひとりうつろな硝子片
ものうげに街路樹見てるジャスミン茶
斉尾くにこ
締切の灰皿ことのはの墓場
ちりんと揺らす鈴かすてらのチューニング
はつなつをむかえにいこう泣きやんで
澤野優美子
ただ黒い背中の虫の夜の脚
渡りきったところで消えている足
初夏の根の塊を引っこ抜く
重森恒雄
誕生日 伸びた輪ゴムのような歳
企みのすべてを知った掌のぬくみ
自分史に拇印を押してしめくくる
杉山昌善
片方の靴に名前をつけるサービス
日曜のマックで話す殺し方
頭を撫でる男を振った今日の午後
須藤しんのすけ
あっち向いてホイならカラスには負けぬ
コンビニに「あたためますか」聞きにいく
穴という穴から過去を吐き出して
浪越靖政
かなしみの字数が余る原稿紙
眠剤を常用してる合歓の花
指南されているのは虹の方
西田雅子
罪があるから綺麗でおいしくて、桜
止まったのは時間バクでもボクでもない
いまさらながら愛も注射も痛すぎて
西山奈津実
潮目変わるかサボテンの花真っ黄
愛称募集桃源のループバス
滝しぶきもう最初から正直に
芳賀博子
タイマンをせがむタトゥーの仔犬の目
ボンネット叩けばまろび出る仁義
すけこましこまっしゃくれがいてこます
橋元デジタル
馬車道の辺り迷子を楽しんで
花殻とわたしせっせと摘んでいる
カーテンを揺らし呼んでる青葉風
林 操
おへそ出てますよニコニコしてますよ
なで肩がヤバいどうやら夏が来る
スクランブル交差点 脚が負けている
飛伝応
今日を生きる過去をきちんと過去にして
思い出を食べ過ぎ吐きそうになった
続かないはずだあなたに影がない
平尾正人
突然の雨お聞きしたいことがある
春うらら娘の歳を間違える
母の日に届く「野菜をＭＯＴＴＯ」缶
弘津秋の子
たくらみを弾ませ駆けてくる少女
深々とお辞儀をされる負けたのね
始まりも終わりもつゆだくの秘密
藤田めぐみ
オオタニを孔子孟子に仕立て上げ
お犬様おクルマ様のためバイト
漫談はお持ち帰りにいたします
藤山竜骨
五月晴れわが物顔の鯉のぼり
宝クジ外れクジしか買いません
八十歳次はあなたと誘われる
堀本のりひろ
誤字に噛みつくお爺ちゃんお婆ちゃん
ファミコンのカセットを吹くお兄ちゃん
母さんを母ちゃんと呼ぶ十二日
真島久美子
半熟な朝にオリーブオイルでも
本当を話したくなる午前二時
間に合うに賭けた 好きだったと書いた
峯島 妙
パステルになれない商人の出自
後悔はまたも賞味期限切れ
朝ヨガの呼吸は翻車魚ののろけ
宮井いずみ
またあした何を信じてまたあした
ＡＩで泳ぐクラゲに猫パンチ
安っぽい涙を拭う鼻セレブ
村田もとこ
思い出に生かされている帰り道
よく食べてあとはぼーっとしてること
無敵だよ準備運動はじめたし
本海万里絵
鬼ごっこ隕石は落ちてこないのに
幸せかそうでないかと風車
シャンプーが目に入ってから異邦人
森平洋子
美しい金魚に猫の片思い
夏の三角逢いに行きます白鳥座
覚悟今いち 爪放題に伸びて行く
森 廣子
一条の光たどれば天使のくしゃみ
菜園の畝高くして風五月
ヤングケアラー少年の虹痩せている
山崎夫美子
バスの旅神戸駅から谷上へ
霊苑へ次のバスなら二時間後
新子先生お墓参りはまた今度
吉田利秋
緑風をPARMチョコでオモテナシ
内紛は起きてないよね御朱印帳
音叉の間（あいま）ありがとうやごめんね
四ツ屋いずみ
わたくしは金魚に名前つけている
寂しさの結び目あたり瞼閉じ
テクマクマヤコン 変身できますか
渡辺かおる
痛いトコなだめて出来ていく私
待つ人がいて帰りたい椅子がある
草の名をいただき人となる覚悟
吾亦紅
美しき威嚇 闘魚には娯楽
生きている人の匂いを絶つ雨か
足指のくいっと反ればしどけなし
阿川マサコ
煙突の残る町並みナポリタン
ITの風に乗れない糸とんぼ
AIに藤の気持ちが分かるのか
浅井ゆず
転任地上司四人帰国子女
転勤す和菓子屋の餡ちょい硬め
勤務地の雲はきれいし肌黒し
朝倉晴美
玄関を向いてる君の膝頭
眠れぬ夜パインアイスが固すぎる
七色の悲鳴を上げる金平糖
石野りこ
ダメにんげんの例として生まれたヨ
レフトではいつも小僧の声がする
紫陽花が咲いた 連絡来ないまま
伊藤聖子
眺めると満腹になる時刻表
バスを待つ無念無想の一時間
水曜は鯖の水煮がよく似合う
伊藤良彦
神さんは戦争しろと言わんやろ
もう初老まだ来ぬヘッドハンティング
食卓の翔平だよねマヨネーズ
稲葉良岩
