会員作品を読む

2024年6月   西田雅子

今月の風

はつなつを迎えにいこう泣きやんで
澤野優美子

春は新しい出会いや悲しい別れ等があり、感情や思いはさまざま。そんな春が終わる季節の変わり目には、春の思い出を大切にしつつ、つらいことや悲しみにくれた涙を拭いて、新しい季節を迎えに行こう。春から夏にかけてのこの時期ならではの心の変化。はつなつを待つのではなく、こちらから迎えに行く。

コンビニに「あたためますか」聞きにいく
浪越靖政

コンビニでお弁当やお惣菜を買うと、店員に「あたためますか」と尋ねられる。コンビニの日常のひとコマである。コンビニコミュニケーションの見事なシンプルさ。食べ物を買いに行くのではなく「あたためますか」のひと言を聞きにいくためにコンビニへ行く。現代の日本社会で、いかにコンビニが日常に馴染んでいるか。今日も淋しいこころをあたためてもらいに「あたためますか」を聞きにコンビニへ行く。

半熟な朝にオリーブオイルでも
峯島 妙

半熟の朝とは、まだ朝の明けきらない時刻の朝なのか、あるいは、まだ完全に目覚めていないぼんやりとした朝なのか。まるで、オリーブオイルを朝そのものにかけるよう。オリーブオイルは健康的でちょっと高価なイメージがあるが、「半熟な朝」というあいまいでゆるやかな朝にひと匙加えることで、なにやら特別な贅沢な朝になるような。また、「半熟の朝」は半熟の卵を思わせ、その食感の柔らかさ、壊れやすさから、繊細で儚い朝が。鮮やかな黄身の色からは、希望も。生まれたばかりの朝をオリーブオイルでやさしく包む。新しいわたしの一日が始まる。

突然の雨お聞きしたいことがある
弘津秋の子

突然の雨に刺激されて、聞きたかったことが急に思い出されたのか。あるいは、予期せぬ状況に、内面的に思わぬ変化が起こり、意味もなく尋ねたくなったとか…。どのようなストーリーが背景にあるのかいっさいわからないが、突然の雨の中の「お聞きしたいことがある」のフレーズには不安や緊張感が伝わってくる。ミステリアスな一句。

続かないはずだあなたに影がない
平尾正人

中村冨二の「パチンコ屋 オヤ 貴方にも影が無い」が思い出されるが、ここでの「影がない」とは、光がないので影がなく、深みがない、本質が見えない等、存在感がないことかもしれない。影がないと、人間関係が続かないとも、ある状態・状況が続かないとも取れる。けれど、逆に影があれば、人間関係も存在感も、よくも悪くも消えずにずっと続いていくという逆説的な句、なのかも。

これからをブロッコリーに言づける
海野エリー

スーパーの野菜コーナーでうず高く積まれているブロッコリー。その鮮やかなみどりに惹かれて思わず1個買ってしまった。ゴロンとキッチン台に置かれたブロッコリー。そのもこもことしたグリーンを見ていると、一つ一つの房にわたしのこれからのことが、まるでみどりの「吹き出し」になって現れているような。家族のこと、仕事のこと、明日のこと…。たくさんのこれからが。

AIで泳ぐクラゲに猫パンチ
村田もとこ

ふわりふわりと優雅に泳ぐクラゲ。けれど、これはAIのクラゲ。AIで生成されたクラゲはとても精巧で視覚的にはリアルに見えるけれど、デジタルな存在で実体がないため現実感に欠ける。そんなクラゲにリアルな猫パンチ!どんなに精巧なAI技術でも猫は見抜いているのです。それともAIのクラゲでもいいから、一緒に遊んでほしい猫パンチ?

勤務地の雲はきれいし肌黒し
朝倉晴美

美しい雲から洩れる日差しはもう夏。新しい勤務地に慣れてきた頃か。畳みかけるように「きれいし」「黒し」と「し」が繰り返され、リズムよく、雲と日焼けした肌の色が強調されている。澄んだ空気ときれいな雲。活動的、健康的で充実した日々。黒く日焼けした肌がまぶしい。