2024年10月

二重跳びと消しゴム判子得意です
空色のバスボム 少し火薬の香
訣別の前に卵でとじてみる

石野りこ

語り部になった三面鏡の指
座布団の波に目を閉じてる木魚
あくびって伝染するのだよ夕日

伊藤聖子

トンネルを抜けても夜が終わらない
あこがれは銀河鉄道999
地球ってどんな星座の一部かな

伊藤良彦

弁当のない子増えゆく令和の世
煮え立つ身冷ましてくれるなると巻き
直角のお辞儀で焼かれている正義

稲葉良岩

ミンミンとしきりに夏をたべている
聞く耳もたん噴水も閉店も
以後の雲もう何もすることがない

岩田多佳子

ていねいに捨てる夕暮れの水着
夏落葉に混じる宿題ハムレット
恋の歌じょうずになって重い舌

海野エリー

月たちは壁に戻って行きました
星月夜鱗をまとっていた僕ら
ネクタイの裏に月光ひそませた

おおさわほてる

全身を打つ脈絡のない話
気持ちいい風を受け取らない君と
街道を何度も流れゆく醤油

小原由佳

大切なものをひとつずつ捨てる
ひと波乱おこした松を引っこ抜く
ひと眠りすれば乾きそうな傷

笠嶋恵美子

一線を引いてゆっくり羽化をする
吊り橋の右を選んでゆく踵
大吉のカタチに伸びる猫のひげ

桂 晶月

金継ぎの身体に沁みる虫の声
夜が来て二足歩行という絆
成功体験ぺこんぽこんぺこん

川田由紀子

アコンカグアだったか父の髭だったか
栗の実の転がり落ちて生前葬
年老いぬアランドロンも相棒も

河村啓子

罪状はパセリと鼻濁音添えて
糸電話記憶違いを手繰り寄せ
刃こぼれの章より深きハーモニカ

菊池 京

御守りの貝が人々迎え入れ
島々は繋がっている昼間酒
花札の代わりに広げ花の布

北川清子

長文読解 恋文は厄介
逆風に背中の羽が飛びたがる
ブレンダー細かいことは気にしない

黒川佳津子

ギニョールの瞼を撫でてから眠る
鶏頭に天地無用と貼ってある
テルマエの男と閉じる秋扇

黒田弥生

じいちゃんの断捨離てにをはが不憫
五合目でイナバウアーを裏がえす
公定の歩幅 消し忘れた犬の秋

河野潤々

冷凍庫大金星を入れている
あでやかで斬新な消しゴムの角
若返り出来てもハダカデバネズミ

斉尾くにこ

卒業フォト脱脂粉乳の面子
木彫りの熊おどる香月泰男のおもちゃ箱
多角形の夕日に駄菓子屋の椅子

澤野優美子

バス一つ見送れば来る黒揚羽
三次方程式に絡みつく髪
くらくらとエノコログサの背が高い

重森恒雄

原爆忌 おのれの影をじっと見る 
千切られた蜥蜴の尻尾いそいそと
屈強な夏草と会う午後なりき

杉山昌善

夕映えも多重人格者の合図
これからはすべて真夏のせいにする
絨毯も洋燈も乗せた駱駝の背

須藤しんのすけ

あそこで右折台風のワルイ癖
ショウヘイのセンス世界をおどろかせ
百条委パワハラ知事の面の皮

田尾八女

こんなにもなにもないひびにもひかる
まって、まだみずうみになりきれてない
こわれているから いまからかえるから

たかすかまさゆき

完璧な罠だレモンが効いている
このへんで臍のスイッチ入れておく
六桁から先はどうでもいい話

浪越靖政

コスモスのうすい揺らぎを掬いたい
ペン先で崩すまだやわらかい月
眠りつく白い廊下を遡上して

西田雅子

形状記憶 九月の憂鬱
秋匂う月は昨日生みましたよ
平穏を形にすれば塩むすび

西山奈津実

電源を切ろうとしたらシャアと噛む
林檎パイ入替戦はこの布陣
栞と付箋と月光の使い分け

芳賀博子

ズルズルとゲーム猛暑日続いてる
いちにちの歩数かぞえて麦とろろ
込み入った話にプリンアラモード

林 操

責任の無い政策は歯切れよく
選べるギフトで悩むのよ七七忌
七色の声で詐欺犯が嗤う

飛伝応

巻く蔓の上昇志向には負ける
ちゃんと聞きなさい体が出す言葉
錆びついた体が軋む煮崩れる

平尾正人

夕暮れのウオーク あかあか川の道
耳奥のミンミン蝉や草むしり
平熱に突然戻る昼下がり

弘津秋の子

花あしらい昔の男ひょいと混ぜ
ケーキ入刀すれば溢れる誤字脱字
湿らせてお手をどうぞという前に

藤田めぐみ

いちごパフェもう終戦にしましょうか
台風の暴れまくっている甘え
大安のおばさま離婚歴語る

藤山竜骨

夏雲にワニ犬象が揃い踏み
湧き上がる雲に誘われ雷(らい)踊る
異星人乗っ取られたか大都会

堀本のりひろ

眠りたくなったら夜の栓を抜く
感覚の窪みに少しだけ真水
トワイライトゾーンで他人めく他人

真島久美子

こんな手を隠してたのね総裁選
東大卒お勉強はできたのに
ひきつった目も政策も恐ろしい

峯島 妙

あざやかな幕切れ黒ようかんの人
切なくて悔しいヌスビトハギの赤
真実を教えてくれたから夕陽

宮井いずみ

夜の秋切子グラスを傾ける
左手でこんにゃくを切る夏の果て
八十路越え赤毛のアンと連れ立って

村田もとこ

さがされる準備がずっとととのわない
こんなとき踊れたらなあって思う
大好きな人に見つけてもらえた日

本海万里絵

秋の陽に甘やかされて髪跳ねる
八事山記憶のほとりで星を摘む
虹の果てラピスラズリをお守りに

森平洋子

桃だって知られたくない傷がある
試されている事さえも知らぬ水
生ぬるい目薬 予定狂い出す

森 廣子

もしかして知覚過敏の伐折羅像
神木の影のとおりに導火線
いにしえをシャッフルすれば藍の月

山崎夫美子

やればできる夏の彬の碑前祭
真夏日の水を探した万歩計
初めてのトマトラーメン食べた夏

吉田利秋

月からの指令は多すぎて 9月
やや濃いめアキアカネから同情論
深呼吸させていただくカムイミンタラ

四ツ屋いずみ

秋の虫鳴いているのに熱帯夜
母と一緒にデイサービスへ行った犬
まだ若い降ろされている黒い犬

渡辺かおる

蝶の翅 術後の友のいる空へ
ふりむけば視点が二つ いや三つ
痛みなき明日を願うや人の秋

吾亦紅

空堀町仮のあはれひ唇す
秋霖に手を取り給うツイン霊
サンクチュアリ肩口にあまやかなる死

阿川マサコ

レジスタンス種なしブドウに種がある
生真面目に生きて箱から出られない
西日さす部屋で残高見つめてる

浅井ゆず

電気屋さん専務になってもおにいちゃん
しゃぶしゃぶ屋隣の諍いとくずきりと
望月や前世占う整体師

朝倉晴美

会員作品を読む 2024年10月 芳賀博子

第39回会員作品から

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